透明がきらめく


 その日の昼休みは教室には居づらいだろうと気を使ってくれた友達らに誘われて私は中庭が一望できるベンチに腰掛けていた。

 中庭の端っこには自動販売機が置いてあって時々人は来るけれど、こんな奥まったところにまで人は来ない。
 要はうまいこと人目が避けられ絶好の場所だった。

 お母さんが作ってくれたお弁当の中身をつつきながら、友達と笑いながらくだらないことを話す。

 場所は変わってもやることは変わらない。進路担当の教師がどうだとか、昨日やっていた連ドラの主演の俳優がどうだとか、あとはきまって恋愛話だ。

 昨日まで私たちの間で持ちきりだったのは4組の美少女田村さんがサッカー部の市川くんと別れた数日後に、同じサッカー部の部長と付き合い始めたと言う泥沼話。

 清楚で優しくて可愛いと噂の彼女の乗り換えの速さに学年中どころか学校中が震撼したという話だ。

 本人は御構い無しといった様子でサッカー部の部長さんとラブラブしているから私たちが口出しをするまでも無いのだけれど、やはり色んなことが気になってああだこうだと言いたくなる年頃なので、その辺は多めに見て欲しい。

 しかし今日に限ってその話題は全くもって浮上して来ない。

 昨日までは誰かがなんのきっかけもなくそういえばさぁとどこからか仕入れてきた真偽も確かではないネタを言い合っていたのに。


「…そういえばさぁ」


 ぷつんと自然に会話が切れた時、次の話題を振ったのはスマホをいじりながら話をしていた吉川だった。

 吉川はサバサバした性格故にいろんなところに友達がいて、情報のパイプを持っている。

 私たち3人の中では一番の情報源である彼女が話を切り出すことはなにも珍しいことでは無い。

 きっと渦中の田村さんの話かなとお弁当の卵焼きを口に放り込んでから身を乗り出した。


「透子、久保田と何があったの?」
「……え?」
「あっ、それ私も聞きたくて!」


 吉川の口から飛び出して来たのは、噂の美少女田村さんでもなければ市川くんとサッカー部の部長さんでもない。

 まぎれもなく私と久保田の名前だった。

 どうやら今まで気を使って話していなかっただけで、二人の興味はすでに前の3人からそれてしまっていたらしい。

 くるんくるんに巻かれた毛先パーマの可愛いタマちゃんも、吉川の一言をきっかけに私の肩をつかんでグラグラと揺らした。
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