アカイ花†Vermilion Flower
あるのは車だけで、人なんてどこにもいない、そんな場所で彼はコンクリートの壁に私を押し付けた。
「放してください、私、仕事が・・・」
逃れようと思っても、逃れられない。
「どうして、別れるだなんて言うんだ!」
彼の、こんなに慌てた姿を見るのは初めてだ。
いつもきっちりと潔癖なほど清潔さを感じさせられる彼の顎辺りには、薄らと無精ひげが生え前髪も乱れ、こんな彼はいつもの彼じゃない。
「ちょっと、大きな声で誰かに聞かれます」
「聞かれても構わない、俺は君を愛してる」
愛の言葉がこんなにも安っぽく聞こえるのは、貴方の指輪のせいね。
「では、言わせて頂きますけど
貴方には、奥様がいらっしゃる
じゃないですか?
奥様と別れて頂けるんですか?」