皇帝のサイコロ
胸いっぱいに吸い込み、一気に吐き出す。

海水浴場には家族連れがたくさんいた。

楽しそうな声が響き渡る。

そんな中、一人の俺。

太陽の熱で焼かれた熱く、不安定な砂浜をザクザクと歩き、冷たい海水にサンダルのまま足を浸けてみる。

冷たさがつま先から全身へ伝わる。

沖の方を見ると、浮き輪の輪の中に尻を落としてのんびりと浮いている女性がいた。

容姿が真実子に似ている。

「大嫌いだ」

そんな言葉が口から出た。

波の音にかき消されるほどの声で。

「大嫌いだ、大嫌いだ。お前なんか」

自分に言い聞かせるように何度も呟く。
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