皇帝のサイコロ
母は一瞬の間を置いて、俺の提案を拒否した。

「ううん、大丈夫。この漬けてる梅が入ったのを持ち上げようとしたら腰に電気が流れたみたいになって。たぶんギックリ腰よ。ふう、ビックリしちゃった。イタタ。ちょっと、リビングに布団敷いてくれる?」

「わかった!」

有紗が母の寝室へと消えた。

こういうときどうすれば良いか頭が回らない。

そもそもギックリ腰になった人なんて周りにいないから迷信だと思い始めていたところだ。

「リビングまで歩ける?」

「うん……」

食器棚や壁をつたってカニのように横歩きする母。

冷静に見ればおかしい。

けど笑うな俺!

本人は必死なんだ!
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