僕は君のためにピアノを弾く
「どうして急に?」

「聞きたくなったから。ダメ?」

「ダメじゃないけどさ……」

「じゃない、けど……?」

ジィと見つめてくる彼女が、腰を折って目線を合わせてくる。

はらりと一房揺れたチョコ色の髪を耳にかけ直して、

「ね、弾いて弾いて? お願いお願いお願い~」

夏休みの宿題がどうしても片付かないみたいに、しんなりした困り顔で手を擦り合わせてきた。

そんな顔をされると、僕のほうが大いに困るんだけど……気付いててやってるのか?

「わ、わかったわかった。弾かせていただきます」

「やったぁ。ふふふぅ」

観念してピアノにきちんと向く。

彼女は、僕からスッと離れて、部屋の隅からパイプ椅子をひとつ引っ張ってきた。

ちょこんと座って、パチパチと拍手してくる。
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