僕は君のためにピアノを弾く
なんだか気恥ずかしくなりながら、そっと、鍵盤に手を添える。

――カノン。

卒業式とかでよく聞く曲って言ったら、たぶん誰でも「あ~」って首を縦に振る。

長く長く響く音色は、聞く人を穏やかにしてくれる。

弾くほうも、穏やかな気持ちになれる。

早い曲じゃないからだろう。一音一音に、ありったけの気持ちを乗せて、鍵盤を叩ける。



ちらりと見た先で、君は目を閉じていた。

熟したいちごのような、ふっくらしていながらシャープな輪郭。

すっと通った鼻に、ちょっと気の強そうな眉。

桜色より透明で、桃色より鮮やかな唇と、その右側にポツンとあるほくろは、昔っから変わらない。

チョコ色の髪だけが、日が暮れるまで遊んでいた昔より、ずっと長くなった。
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