僕は君のためにピアノを弾く
そうしてカノンを弾き終えた僕を待っていたのは、始まる時と同じ、彼女たったひとりによる、拍手の喝采。

開かれた瞳に、僕はなんとなく、きらきら星の輝きを幻視した気がした。

「やぁっぱ、すっごいね~」

と言って、彼女は立ち上がった。パイプ椅子をかちゃんとたたみ、部屋の隅へ運ぶ。

「さぁて、次はなにを弾いてもらおっかなあ」

片手で肘を抱き、片手を頬に当てる。

と、と、と。と、軽い足音でリズムよく、僕のそばへ彼女はきた。

「リクエストは決まった?」

見上げながら訊くと、彼女は低く長く唸った。

やがて、

「笑わない?」

と訊き返してくる。

普段の彼女が可憐な百合なら、時々見せる少し弱気な表情は、まるでコスモスみたいだと思う。

「笑わないよ。なに?」

即答すると、彼女はやや俯き加減で、言った。
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