僕は君のためにピアノを弾く
「愛のあいさつ、お願いします」

「……喜んで」

こくりと頷いて、またピアノへ向く。

始まりは、まるで春の日溜まりでくつろいでいるかのような、愛のあいさつ。

たしか、愛する人に贈った曲だ。

愛する人に贈る曲……そんな曲を、僕だって、手を抜いては弾けない。

「ら~♪」

「?」

気付けば、彼女が歌っていた。

少し顔を赤らめながら、歌詞のない曲を、ラララと。

見上げたら、彼女と視線がかち合った。

なによ。と言われたかもしれない。

ふふふぅ。と笑われたかもしれない。

少しハスキーな彼女の歌声は、ルルルと響く僕のピアノと相成って、音楽室を震わせる。

いや、震えているのは、僕の指なんだ。胸なんだ。心なんだ。

彼女とのコンサートが嬉しくて、たまらない。

ちくしょう。

愛のあいさつは長い曲じゃない。それが、今こんなにも、むかついた。
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