僕は君のためにピアノを弾く
僕は弾き終えて、彼女は歌い終えて、つかの間のコンサートは霧散してしまう。

余韻に浸りたい。耳を傾ければいついつまでも心の中で、僕らの共演が泳いでいる気がした。

けれど、

「ねぇ」

と、彼女が沈黙を破った。

「やっぱり、君の曲はすっごいねぇ」

今日だけで二度も聞けた『すっごい』は、星のようにチラチラリと、僕の心へ浮かんだ。

僕の中に、彼女からの勲章が増えたんだ。

「君の歌も、その、すっごいよかった」

「ふふふぅ。ありがと」

また肘を抱き、頬に手を当てた彼女は、急に真剣な顔で言った。

「今の愛のあいさつ、どんな気持ちで弾いてくれた?」

「え?」

「私は……君のピアノが好きです。君の曲が好きです」

「……」

「君のことも、好きです」

「…………」

僕はいきなりの告白に、戸惑った。

これが、二の句が出てこないっていうんだろうと思った。
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