いつかその時まで
タイトル未編集
高校生は不公平な程までに公平だ。
女の子は綺麗であればそれだけで良いのだと思っていた。
不細工であればあるほど蔑まれるのだと考えていた。
その私の考えを打ち砕いたのは、学校だ。
お世辞にも可愛いと言えない女子たちが、華やかな格好をして大きな声を出して男子からちやほやされる。
はなから自分を可愛く見せることに興味がない地味な女子でも、優しいという理由だけで華やかな男子から可愛がられたりもする。
「人間見た目じゃないよ。」
そんな言葉を聞く度に、「見た目だけの貴方には何の価値もないんだよ」と言われているような気分になった。
好きな人がいる。
オタクだし見た目もあまりだけれど、性格が良い。
いつも疲れたような顔をしているのにたまに笑うとすごく子供っぽくて、そういう不意に見せる表情にグッと来る。
私はクラスの男子と殆ど口をきかずあまり良い印象を持って貰えていないみたいだけど、彼は私が困っていると真っ先に助けてくれる。
要は「良い人」。
けれど、彼の周りにはいつも冴えない見た目の女子が集まっていて、私が入る隙などまるでない。
オタクはオタク同士で仲良くしたがり、他の趣味の人をあまり寄せ付けたがらない習性にあるらしい。
それを知った時、私は彼がいつも女子たちと話している少年漫画を一気に全巻買って一晩で読んだ。
けれど、「私もそれ知ってる」と話に入っていくだけの勇気は起こらなかった。
そんなことを何度も繰り返してもうすぐ1年が過ぎようとしている。
彼が人を見た目で判断するような人だったら良いのに…、そんなことを最近は思ってしまう。
私は自分の顔が好きだ。
顔立ち自体は地味だから中学生の間は自分がどれだけ綺麗な顔をしているか気付けずにいた。
高校生になってからだ。
周りの女子たちの顔立ちが自分よりも劣っているということに気付けた。
クラスの中、電車の中、イベント会場の中、ショップの中…。
見渡して見ると常に私は1番だった。
華やかでも特徴的でもないけれど、顔立ちが整っているのだ。
美人と言えなくても不細工と言われる心配はない。
自信を持ってからの私は今までのように俯いて過ごす日々はなくなった。
毎朝ちゃんと化粧もして、身だしなみには人1倍気を遣った。
そうして誰よりも素敵な女子になったはずだったのに。
「マット、そっち持って。」
不意に現実に戻された。
顔を上げると、女顔の眼鏡の男子が此方を見ていた。
急に頬が熱くなり、私は慌ててマットの耳を持つ。
渡辺君、という名前だ。
クラスメートたちはもう体育館から出て行ってしまっていた。
外から聞こえてくる楽しそうな笑い声に思わず唇を噛む。
残っていたマットをすべて倉庫に運び終え、私たちは体育館出口へと向かう。
「いつも有難う。」
私が小声で言うと、渡辺君は此方を振り返った。
「いえいえ。」
無愛想にぼそっと言われ、少しだけ胸が締め付けられた。
どうせ好きになるなら私にも愛想の良いもっと軽くて格好いい人を好きになれば良かった。
どんどん離れていく渡辺君の背中を見ながら溜息が漏れた。
女子更衣室へと向かう。
もう殆どの女子は着替え終わって教室へ戻っているだろうと思って、扉に手を掛けた。
「安藤さんって、何考えてるか分からないよね。」
自分の名前が扉の向こうから聞こえてきて、慌ててノブを捻ろうとしていた手を止める。
悪口かと思い、咄嗟に手で耳を塞ぐ。
「なんかちょっと不気味だよね。
綺麗だけど全然喋らないし暗いし。あの人男子から何て呼ばれてるか知ってる?」
やっぱり悪口だ。
扉から離れようと一歩退いた時、誰かにぶつかった。
慌てて振り返ると渡辺君だった。
「雪女。超ぴったりじゃない?もう人外だよ。」
私が自分でする前に、耳が塞がれた。
背後にいる渡辺君が覆ってくれたのだと少ししてから分かった。
渡辺君も私のことを雪女と思っているのだろうか。
耳を覆ってくれる手に安心しながらもふと考えて少しだけ悲しくなった。
女の子は綺麗であればそれだけで良いのだと思っていた。
不細工であればあるほど蔑まれるのだと考えていた。
その私の考えを打ち砕いたのは、学校だ。
お世辞にも可愛いと言えない女子たちが、華やかな格好をして大きな声を出して男子からちやほやされる。
はなから自分を可愛く見せることに興味がない地味な女子でも、優しいという理由だけで華やかな男子から可愛がられたりもする。
「人間見た目じゃないよ。」
そんな言葉を聞く度に、「見た目だけの貴方には何の価値もないんだよ」と言われているような気分になった。
好きな人がいる。
オタクだし見た目もあまりだけれど、性格が良い。
いつも疲れたような顔をしているのにたまに笑うとすごく子供っぽくて、そういう不意に見せる表情にグッと来る。
私はクラスの男子と殆ど口をきかずあまり良い印象を持って貰えていないみたいだけど、彼は私が困っていると真っ先に助けてくれる。
要は「良い人」。
けれど、彼の周りにはいつも冴えない見た目の女子が集まっていて、私が入る隙などまるでない。
オタクはオタク同士で仲良くしたがり、他の趣味の人をあまり寄せ付けたがらない習性にあるらしい。
それを知った時、私は彼がいつも女子たちと話している少年漫画を一気に全巻買って一晩で読んだ。
けれど、「私もそれ知ってる」と話に入っていくだけの勇気は起こらなかった。
そんなことを何度も繰り返してもうすぐ1年が過ぎようとしている。
彼が人を見た目で判断するような人だったら良いのに…、そんなことを最近は思ってしまう。
私は自分の顔が好きだ。
顔立ち自体は地味だから中学生の間は自分がどれだけ綺麗な顔をしているか気付けずにいた。
高校生になってからだ。
周りの女子たちの顔立ちが自分よりも劣っているということに気付けた。
クラスの中、電車の中、イベント会場の中、ショップの中…。
見渡して見ると常に私は1番だった。
華やかでも特徴的でもないけれど、顔立ちが整っているのだ。
美人と言えなくても不細工と言われる心配はない。
自信を持ってからの私は今までのように俯いて過ごす日々はなくなった。
毎朝ちゃんと化粧もして、身だしなみには人1倍気を遣った。
そうして誰よりも素敵な女子になったはずだったのに。
「マット、そっち持って。」
不意に現実に戻された。
顔を上げると、女顔の眼鏡の男子が此方を見ていた。
急に頬が熱くなり、私は慌ててマットの耳を持つ。
渡辺君、という名前だ。
クラスメートたちはもう体育館から出て行ってしまっていた。
外から聞こえてくる楽しそうな笑い声に思わず唇を噛む。
残っていたマットをすべて倉庫に運び終え、私たちは体育館出口へと向かう。
「いつも有難う。」
私が小声で言うと、渡辺君は此方を振り返った。
「いえいえ。」
無愛想にぼそっと言われ、少しだけ胸が締め付けられた。
どうせ好きになるなら私にも愛想の良いもっと軽くて格好いい人を好きになれば良かった。
どんどん離れていく渡辺君の背中を見ながら溜息が漏れた。
女子更衣室へと向かう。
もう殆どの女子は着替え終わって教室へ戻っているだろうと思って、扉に手を掛けた。
「安藤さんって、何考えてるか分からないよね。」
自分の名前が扉の向こうから聞こえてきて、慌ててノブを捻ろうとしていた手を止める。
悪口かと思い、咄嗟に手で耳を塞ぐ。
「なんかちょっと不気味だよね。
綺麗だけど全然喋らないし暗いし。あの人男子から何て呼ばれてるか知ってる?」
やっぱり悪口だ。
扉から離れようと一歩退いた時、誰かにぶつかった。
慌てて振り返ると渡辺君だった。
「雪女。超ぴったりじゃない?もう人外だよ。」
私が自分でする前に、耳が塞がれた。
背後にいる渡辺君が覆ってくれたのだと少ししてから分かった。
渡辺君も私のことを雪女と思っているのだろうか。
耳を覆ってくれる手に安心しながらもふと考えて少しだけ悲しくなった。
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