瀬々悠の裏事情


智昭は再び思案し、沈黙する。
徐々に気まずくなる雰囲気を上げようと、今度は瀬々が口を開いた。


「俺からも聞きたいんスけど、花村さんはその人を調べてどうしたいんですか?」

「えっ……どうしてそんなこと…」

「一応、相手の方にもプライバシーがありやすし、こちらもリスクを担うわけですから、せめて理由くらいは聞いておこうと思いまして」

「……その人に会いたいんです。会って……話がしたくて」

「…そうッスか。まぁ理由なんて人それぞれッスよね。でも俺から言わせてもらえば――」

「瀬々ちゃん」


智昭から咎めるような声色で名前を呼ばれ、瀬々は口を閉ざす。


――すいませんね。
――でも俺の思ってること
――間違ってないッスよ。
――条件といい、態度といい
――不自然な点が目立ちます。
――人捜しなら俺らじゃなくてもいいはず。
――それをわざわざ桐島の坊ちゃんを連れて
――ここに来たんス。訳アリ確定です。
――断った方がいいと思いやす。
――どうせ今も能力使ってるなら
――分かってるんでしょ……先輩。


心の内で話し掛けながら、瀬々は智昭を見やる。
智昭は目線を合わすことはしないものの、合図とでも言わんばかりに軽い溜め息を零した。
すると前から消え入りそうなか細い声が聞こえた。


「あの……私、どうしてもその人に会って、聞きたいことがあるんです。嘘じゃないです。だから……」


訴えかけようとするも、言葉は最後まで続くことなく途切れ、洋子は俯く。
その様子をずっと見つめていると、今まで沈黙を貫いていた陽一が見かねて口を開いた。


「俺からもお願いします。頼めるのはここしかないんです。対価なら、そちらが望むものをいくらでもお支払いしますから」


真剣な眼差しで陽一が断言すれば、瀬々は目を細める。

――随分大きく出たもんだ。
――でもそれはある意味正解か。


「――分かりました」


隣から声が聞こえ、瀬々は口元に笑みを浮かべる。


「明後日にまたこちらへおいで頂けますか?それまでに正式な担当を決めておきますので。その時に詳しく話しましょう」


智昭の言葉に、洋子は嬉しそうな顔で頷く。
そしてまたも小さな声で、ありがとうございます。と呟いた。


.
< 19 / 70 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop