瀬々悠の裏事情
「姑って……まだ早いよ。ふふっ」
未夜は軽く笑みを零す。
「そうッスけど。でもっぽくないッスか?」
「確かにそれっぽいかも」
笑みを浮かべながらも、未夜は眉根を下げる。
「でも私の場合は仕方ないわ。クロードさんにいつも迷惑掛けちゃってるから」
「そうなんスか?俺よりちゃんと真面目にやってると思いやすけど」
「そんな事ないわ。今日もミスしちゃったし、依頼者に振り回されてるって怒られちゃったし」
「ふーん……」
――ここにも自信なしが一人。
確かに大人しく気弱なところはあるが、好き嫌いははっきりしているし、自分の意見もしっかり持っている。
落ち込むほど仕事に影響があるとは思えない。
――まぁクロードさんは
――完璧主義っぽいし
――色々言われそうッスけど。
間違いなく、自分とは相性最悪だと。
瀬々はそう思うと、割と雑だが柔軟な思考の持ち主である智昭が自分の上司で良かったと、心なしか安堵する。
「瀬々くんはどう?仕事の方は」
「相変わらずッスよ。でも状況は芳しくないッス。今月の結果によっちゃあクビなんで」
「えっ!?どうして?」
「成績悪いからッスよ。先月で三ヶ月連続最下位だったんで」
至って平常に淡々と述べるが、未夜は未だ驚きを隠せずにいる。
「そんな……瀬々くんは頑張ってるわ」
「当然。未夜さんやセンパイに負けてるとか、思ったこと微塵もないッス。むしろ誰より藍猫に貢献してんのは俺だ」
可能な限りの依頼を引き受け、誰より多くこなしてきた。
それは確かな数値として示され、瀬々の自信かつ情報屋としての自尊心へと繋がっていた。
「でも結果は違う。望まれているものを満たさなければ否定される。腹立たしいことこの上ないッス」
現実は自分の意識や理想と遠くかけ離れ過ぎている。
振り回され悩まされ、頭が痛くなる。
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