瀬々悠の裏事情


「おっと。そりゃすいやせん……あ、じゃあコンタクトにすればいいじゃないスか。高校デビューみたいなノリで」

「私は断然眼鏡派だ。コンタクトなど、そんなおぞましいものなど論外だ」


そうはっきり言い切ると、クロードは立ち上がって休憩室から出て行ってしまった。


「おぞましいって……単純に目に異物を入れるのが怖いだけじゃ」

「まぁそんなこと言わないで。それはそうと、さっき千秋ちゃんに連絡しといたよ」


宥めるような口調で話す智昭に、瀬々は振り向いて反応する。
どうやら約束通り、今朝のうちに連絡していてくれたようだ。


「どうでした?」

「午前は予定が入ってるみたいだけど、一時からは空いてるので、お待ちしてますって言ってたよ」


告げられた快諾の返事に、瀬々は笑みを浮かべる。


「ありがとうございやす。じゃあお昼食べてから行ってきます」

「了解っと。それまでの間どうする?二時間以上あるけど」

「うーん……」


智昭の言葉に時計を見れば、午前十時半を過ぎたところであった。
午前は出社記録を残し、散策までの時間潰しに軽い書類整理をする予定だった為、更に空いてしまった時間をどうするか決めかねていた。


「暇なら一緒に受付してる?」

「11時までじゃないんスか?」

「そうだったんだけど、クロードちゃんに急なお客が入ったからね。12時近くまですることになったんだ」

「そうなんスか。なら……あ、やっぱいいッス。始末書書きます」


軽く頭を振りながら断ると、智昭は目を丸くする。


「始末書って、もう終わった依頼あるの?」

「一応。沖倉さん辺りは割と低コストで済んだんで、一気に片付けちゃいました。依頼同様、始末書もすぐに終わると思うんで、書き終わったら机に置いときやす」

「ん。ほどほどにね」

「分かってるッス」

「あと、やる前に顔洗いなよ」

「ほーい」


穏やかな声色で紡がれる言葉を背で聞きながら、瀬々は揚々と休憩室を後にする。
その背中を見つめながら、智昭は曖昧な笑みを浮かべると、続くように立ち上がって歩き出した。

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