瀬々悠の裏事情
「見た目だけだろ。俺も今年で四十だしな。相澤は元気か?」
「ええ。相変わらず仕事に追われてやすけどね」
「ははっそうか。今度飲みに行こうって伝えといてくれ」
「了解ッス」
瀬々とにこやかに言葉を交わすと、南雲はあかねの肩に手を置いた。
「お友達といるところ申し訳ないのですが、佐倉が待ってます。そろそろ行きましょう」
「もうですか?まだ時間ではなかったような…」
あかねがそう言うと、南雲は軽く苦笑する。
「どういうわけか、佐倉は仕事を既に切り上げたようでして。さきほど局員にあなたが来てると聞いたらしく、迎えを頼まれました。よほどあなたに会いたいんでしょうね」
言い終わって南雲が悪戯な笑みを浮かべる傍ら、あかねは困ったような笑みを浮かべつつも、その様子は嬉しそうでもあった。
ーーあかねっちにしては珍しい。
ーー佐倉さんってどんな人なんスかね。
瀬々の中でちょっとした疑問が浮かぶ。
「そういうことみたいだから、私は行くね。一緒に来てくれてありがと」
「いえいえ。こっちこそ楽しかったッスよ」
その言葉にあかねは笑みを浮かべて、南雲と共にこの場を後にしようとする。
すると突然現れた人物にぶつかりそうになる。
「あわわっ!すみません……って姫!」
あかねとぶつかりそうになった人物は、自分が待っていた橘千秋だった。
きっとこれ以上は待たせまいと急いでいたのだろう。
ーーというか姫って。
疑問の眼差しを向けるも千秋は全く気付かず、あかねの様子を伺っている。
「申し訳ありません!お怪我はありませんでしたか?」
「こ、こんにちは。大丈夫ですよ」
慌てる千秋に、あかねは苦笑しながらも言葉を交わす。
「全く。元気なのはいいが気を付けろよ」
「あ、南雲さん。うちに何か用でも?」
「いや、桜空さんを迎えにきただけだ。それにしても今日は随分いないな。休みか?」
「んなワケないですよ。緊急で俺と里歌さん以外、みんな出払っちゃってるんです」
「なるほどな。やっぱ対策部はどっちも大変だな。玲ちゃんによろしく伝えといて」
千秋と少しばかりのやり取りをした後、そう言い残してあかねの背中を軽く押しながら歩き出す南雲。
だか何かを思い出したのか「そうだ」と声を零すと足を止め、瀬々の方を振り向いた。
「瀬々くん、後で調停部の方にも来れる?」
「え?あぁ、構いませんけど」
何かあっただろうか。
そう考えて問い掛けようとしたが、南雲の姿は既になかった。
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