瀬々悠の裏事情

依頼人ではなく、友人の付き添いであったことは伏せて理由を述べる。
余計な詮索を避けるため、それなりに御託は並べてはいるが、動機は実に単純だ。
陽一の詳細を知りたいのは事実であるが、怪しまれて情報を得られない可能性がある。
瀬々は密かに千秋の様子を伺う。


「桐島くんが藍猫に……確かに珍しいよね。うんうん」


しかしそんな心配は必要なかったと言わんばかりに、千秋は納得した素振りで頷きながら話し始めた。


「基本的なことなんですけど、七華は異能者の始祖とされる古代種の中で力のあった者達の直系である桜空、菊地、海藤、橘、椿、杜若、桐島から成り立っているのは知ってますよね?」

「もちろん。というか常識ッスよね」


世界の裏側で続いている異能者の歴史において、古くから存在し続け強力な力を持つ、この現代においても純血を保っている由緒ある一族。
それが七華である。
異能者なら見たことはなくても、その存在を聞いたことはあるだろう。


「そうですね。その常識として留めるならそれでいいんだけど、七華を一括りにするには実は複雑なんです」

「どういうことッスか?」


複雑という言葉に、瀬々はすかさず問い詰める。


「簡単に言っちゃうと七華は桜空、菊地、海藤の御三家。橘と椿。そして杜若と桐島の三つに分けられるんです」


順に指を三本立てて、千秋は話を続ける。


「御三家は言わずもがな、現在においても強力な異能者を輩出し続ける名門中の名門。中でも桜空家は最も歴史が古く、七華において最高位の一族です」

「いかにも強そうッス」

「同じ純血でも、御三家は格が違いますからね。格下の異能者を無条件に従わせる力を持った方もいたみたいですよ」

「うっわ、純血怖っ」


異能社会の中では数少ない純血かつ超越した存在として尊ばれている御三家だが、その反面、強力な能力を持つおぞましい存在とも思える。
顔を若干青くする瀬々に、千秋は楽しそうに笑う。

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