瀬々悠の裏事情
「とは言え、昔に比べれば大分落ち着いてはいますけどね。んで橘と椿はそれぞれ桜空家、菊地家の眷族です。両家は主である家はもちろん、御三家に絶対の忠誠を誓っています」
「だからあかねっちを姫って呼んでるんスか?」
「そうですね。俺の生家である橘家は、特に礼節を重んじる超絶お堅い一族なんで。まぁ癖みたいなもんです」
気になっていたことを口にすれば、千秋は思いのほか気軽に答えてへにゃりと笑った。
その様子からは、彼が厳格な橘の生まれであるとはとても見えない。
「ちなみに十二年前の惨劇で滅んだ柳は、海藤家の眷族でした。そして最後に杜若と桐島ですが」
桐島という言葉に、瀬々は耳を傾ける。
「彼らは他五家と違って、外来の一族なんです」
「外来?」
「ようは外国の古代種を祖としてるんです」
七華といえど、ルーツはそれぞれ違うことは容易に考えられた。
だが桐島家はその予想を軽く超えた異色の存在らしい。
「そっちでは御三家に勝るとも劣らない、それはそれは格の高い一族だったようですよ」
「なのにこっちに来たってことは、訳あり的な?」
「聞いた話じゃ、権力争いに負けて逃げてきたんだとか。元々日本にいた一族ではないんで、七華の中じゃあ位が低いんです」
初めて耳にした桐島の起源と経緯。
咄嗟に手帳を取り出して記述する。
情報屋に身を置く瀬々は、ありとあらゆる情報を手にすることが出来る。
だが本来関われる立場でも関係すらもない彼が、七華の情報を手にすることが出来るのは、ほぼ奇跡に近い偶然であり、この機会を逃すわけにはいかなかった。
「しかし桐島はその経緯から、シュタットプラッツァとの外交において非常に重要な役割を果たしてくれています」
「シュタットプラッツァと?何でまた」
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