瀬々悠の裏事情


「ああ、だから逃亡者がいるんスね」


毎年シュタットプラッツァから日本へ逃亡する異能者が、ごく僅かではあるが存在している。
大方シュタットプラッツァの在り方に不満を抱いた者達だろう。


「そういうことです。まぁ開放的な日本の異能社会を知っちゃったら、いくら守る為とはいえ、抑圧的な統治下から逃げたくなるのも分かりますがね」


その言葉に瀬々は、口にはしないが頷いて同意を示す。


「恐らくあちら側もそれがわかっているから、七華と接触し僅かながらでも交流しているんでしょう。逃亡した異能者達を容認してもらうために」

「随分と都合良すぎッスね」


他所からの干渉を断っているはずなのに、その枠組みから抜け出した者を擁護する。
矛盾もいいところである。


「そうですね。今はどこからでも情報が手に入るし、完全封鎖をすることは難しいでしょう。それに彼らも、異能者が尊厳を奪われことなく平穏に暮らせることを望んでいるはず。結局両者とも根底にあるものは同じなんです。ただ彼ら、折り合いが悪いらしくてね。桐島家はそんな双方の橋渡しを担ってるわけです」

「桐島家って意外と苦労してんスね」


橋渡しということは、事と状況次第では板挟みになる可能性は十分有り得る。
仮にそうでなくても、両者の意地と意思がぶつかり合うことは、いくらでもあるだろう。


「陽一くんはそんな桐島家現当主・桐島朝陽様の御子息で次期当主です。会ったなら分かるとは思いますが、見目麗しいその容姿と思慮深く柔らかな物腰で、女性に大変人気なんですよ」

「あー王道ッスもんね」


金髪碧眼といった、まさにお伽話の王子のような陽一の姿を思い浮かべながら、瀬々は呟く。


「しかも御三家に期待されてる優良物件ですしね。あとお姉さんが三人もいるから、きっと女性に優しいでしょうね」

「あ、お姉さんいるんスか」

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