・*不器用な2人*・
第10章/デートの約束
「今週の土曜日、空いてますか。」
みんなと別れてすぐ、梶君が言った。
私はケータイのカレンダーを確認して、頷いた。
「水族館のチケット2枚もらったから、一緒に行こうよ。」
珍しく疑問系ではない提案をしてきた梶君に、私は少しだけ驚いた。
「イヤだったら断ってくれても大丈夫だけど……。」
すぐにそう付け加えて、梶君は俯く。
少し先の折れたチケットを無言で差し出され、私はためらいながらも受け取った。
「土曜日の11時。駅前集合で。」
梶君に言われ、私もゆっくり頷いた。
突然のことで驚いてしまったものの、内心ではすごく嬉しかった。
――デートって考えていいのかな。
リップを塗りながら私は自分の席で頬を染めた。
昨晩は悶々として眠れなかったというのに、一晩おいても高揚したテンションは下がらなかった。
「綾瀬ちゃん、なんか楽しそうだね。」
不意に、持っていたミラーが奪われた。
いつの間にか私の席まで来ていためぐちゃんが、ミラーを持ったまま不審そうな顔で私を見る。
「そんなことないよ!」
慌ててそう言い、めぐちゃんからミラーをひったくると、少しだけ落ち着いた。
他の人から見ても分かるほど、表情に出ていたのだろうか。
「もしかして梶君と進展あったの?」
ニヤニヤしながら訊ねてくるめぐちゃんに、私は「違うよ!!」と少しだけ大声をあげてしまった。
周りのクラスメートたちが振り返り、私も慌てて口を押さえる。
「うわー、やっぱり何かあったんだ。」
めぐちゃんは笑いながら、自分の席へと行ってしまった。
昼休み。
めぐちゃんと一緒に教室を出た際、パンと財布を持って購買部から戻って来た淳君とすれ違った。
彼は長い前髪の中から私をチラッと見たが、何か声をかけてくるわけではなかった。
放課後、淳君は私に声をかけずにさっさと教室を出て行ってしまった。
荷物をまとめている途中だった私は「今日は一緒じゃないのか」と少しだけホッとした。
けれど、先日木山君に言われた「一緒に帰ってやって」という言葉を思い出し、慌てて後を追った。
下駄箱で淳君に追いつくことができた。
「淳君、一緒に帰ろう。」
私が声をかけると、靴を履き替えていた彼は驚いたように顔をあげ、私をまじまじと見た。
彼は何の返事もしなかったけれど、私が上履きをローファーに替えるのを待っていてくれた。
「あの後、あいつに何か言われなかった?」
淳君がボソッと言う。
あいつ、というのが木山君のことだとすぐに分かった。
私は「別に何も」と答えたけれど、昨日の別れ際に言われた言葉はまだ頭の中を回っていた。
何となく淳君が元気がないように見えたけれど、私は何もかける言葉が見付からず、結局は大した会話もしないまま駅まで着いてしまった。
「今日は声かけてくれてありがと。」
改札を抜ける前に、淳君は小声でそう言った。
定期券で改札を通り、そのまま姿を消そうとする淳君に、私は慌てて声をかけた。
「淳君、これ、私の電話番号。」
いつもとっさの時のために持ち歩いているメモを、私は淳君に差し出す。
彼は驚いたように振り返り、しばらく私とメモを交互に見ていたが、やがて無言で受け取ってくれた。
みんなと別れてすぐ、梶君が言った。
私はケータイのカレンダーを確認して、頷いた。
「水族館のチケット2枚もらったから、一緒に行こうよ。」
珍しく疑問系ではない提案をしてきた梶君に、私は少しだけ驚いた。
「イヤだったら断ってくれても大丈夫だけど……。」
すぐにそう付け加えて、梶君は俯く。
少し先の折れたチケットを無言で差し出され、私はためらいながらも受け取った。
「土曜日の11時。駅前集合で。」
梶君に言われ、私もゆっくり頷いた。
突然のことで驚いてしまったものの、内心ではすごく嬉しかった。
――デートって考えていいのかな。
リップを塗りながら私は自分の席で頬を染めた。
昨晩は悶々として眠れなかったというのに、一晩おいても高揚したテンションは下がらなかった。
「綾瀬ちゃん、なんか楽しそうだね。」
不意に、持っていたミラーが奪われた。
いつの間にか私の席まで来ていためぐちゃんが、ミラーを持ったまま不審そうな顔で私を見る。
「そんなことないよ!」
慌ててそう言い、めぐちゃんからミラーをひったくると、少しだけ落ち着いた。
他の人から見ても分かるほど、表情に出ていたのだろうか。
「もしかして梶君と進展あったの?」
ニヤニヤしながら訊ねてくるめぐちゃんに、私は「違うよ!!」と少しだけ大声をあげてしまった。
周りのクラスメートたちが振り返り、私も慌てて口を押さえる。
「うわー、やっぱり何かあったんだ。」
めぐちゃんは笑いながら、自分の席へと行ってしまった。
昼休み。
めぐちゃんと一緒に教室を出た際、パンと財布を持って購買部から戻って来た淳君とすれ違った。
彼は長い前髪の中から私をチラッと見たが、何か声をかけてくるわけではなかった。
放課後、淳君は私に声をかけずにさっさと教室を出て行ってしまった。
荷物をまとめている途中だった私は「今日は一緒じゃないのか」と少しだけホッとした。
けれど、先日木山君に言われた「一緒に帰ってやって」という言葉を思い出し、慌てて後を追った。
下駄箱で淳君に追いつくことができた。
「淳君、一緒に帰ろう。」
私が声をかけると、靴を履き替えていた彼は驚いたように顔をあげ、私をまじまじと見た。
彼は何の返事もしなかったけれど、私が上履きをローファーに替えるのを待っていてくれた。
「あの後、あいつに何か言われなかった?」
淳君がボソッと言う。
あいつ、というのが木山君のことだとすぐに分かった。
私は「別に何も」と答えたけれど、昨日の別れ際に言われた言葉はまだ頭の中を回っていた。
何となく淳君が元気がないように見えたけれど、私は何もかける言葉が見付からず、結局は大した会話もしないまま駅まで着いてしまった。
「今日は声かけてくれてありがと。」
改札を抜ける前に、淳君は小声でそう言った。
定期券で改札を通り、そのまま姿を消そうとする淳君に、私は慌てて声をかけた。
「淳君、これ、私の電話番号。」
いつもとっさの時のために持ち歩いているメモを、私は淳君に差し出す。
彼は驚いたように振り返り、しばらく私とメモを交互に見ていたが、やがて無言で受け取ってくれた。