・*不器用な2人*・
猿渡ミコの場合
昔からリーダー気質だった。
陰口は経験済みだけど、いじめられたことは未だない。
いじめられない方法とか知ってるつもりだし、見た目も可愛いし、頭だっていいし。ノリだってまあいい方で。
私はゆとりじゃ珍しく純・優等生であり、器用な人間だ、多分。
バレンタインの朝。
下駄箱で木山兄と遭遇した。
笑顔で挨拶されるのを軽くスルーして彼の下駄箱を無言で開けると、まるで漫画のようにチョコが入っていた。
「全部食べるの?これ」
私が言うと木山兄は何故か妙に照れながら「ムリだねー」と笑い、それから1つだけ市販のチョコを手にとった。
「これ以外燃やす。
お返しとかなし」
「え、木山君彼女いたの!?」
私が言うと、木山兄は嬉しそうに頷いて教室へと行ってしまった。
少し遅れて登校してきた木山弟が、自分の下駄箱と兄の下駄箱に入っているチョコをすべて慣れた手つきで鞄に放り込む。
「お兄ちゃんの分も食べるの?」
私が訊ねると木山弟は無言で首を横に振った。
「俺、チョコ嫌い。
肌が赤くなるから」
彼はそう呟くと教室へと向かって行ってしまった。
グラウンドに、やはりめぐはいた。
「めぐー、チョコー!」
私が芝生から怒鳴ると、素振りをしていためぐは顔を輝かせて走ってくる。
「腹減ってたんだ、丁度!
猿渡有難う!」
そう言うめぐの声の低さと、彼の体の逞しさに、私は複雑な気分になる。
「お返しは?」
「ないよ。俺、今年は男子だから」
「いや、去年もあんたバレンタイン不参加だったじゃん」
すかさず突っ込みを入れて、私は芝生を離れた。
暫くして背後から名前を呼ばれる。
「これ、誰かのと間違えたんじゃない?
なんか本命っぽいんだけど!」
――うわっ、やっぱ通じてない!
膝から崩れ落ちそうになるのを堪えて私は振り返る。
「間違ってないよ!」
そう言うと、めぐは一瞬ポカンとした表情を浮かべた。
「さ、さんきゅ!」
ぎこちなく言われ、何だか急に恥ずかしくなってきた。
「ホワイトデー、期待してるからね」
それだけ言って慌てて教室へ戻った。
安藤ちゃんが私の席で待っていて、つっかえながら「どうだった?」と聞いてくれる。
私は苦笑いを浮かべながら頬をかいた。
「イマイチ通じてなかった気がするねんけど…」
私はいつでもリーダー気質で、美人で、優等生で、女子たちの人気者なわけで。
恋愛なんてしている暇がなかったんだ。
超弩級に初心者なんだ。
そう心の中で呟きながら、妙にカッコよくなってしまった日野萌改め日野恵一を眺める。
出会った時からいつだってそう。
君の前だけ不器用な私。
陰口は経験済みだけど、いじめられたことは未だない。
いじめられない方法とか知ってるつもりだし、見た目も可愛いし、頭だっていいし。ノリだってまあいい方で。
私はゆとりじゃ珍しく純・優等生であり、器用な人間だ、多分。
バレンタインの朝。
下駄箱で木山兄と遭遇した。
笑顔で挨拶されるのを軽くスルーして彼の下駄箱を無言で開けると、まるで漫画のようにチョコが入っていた。
「全部食べるの?これ」
私が言うと木山兄は何故か妙に照れながら「ムリだねー」と笑い、それから1つだけ市販のチョコを手にとった。
「これ以外燃やす。
お返しとかなし」
「え、木山君彼女いたの!?」
私が言うと、木山兄は嬉しそうに頷いて教室へと行ってしまった。
少し遅れて登校してきた木山弟が、自分の下駄箱と兄の下駄箱に入っているチョコをすべて慣れた手つきで鞄に放り込む。
「お兄ちゃんの分も食べるの?」
私が訊ねると木山弟は無言で首を横に振った。
「俺、チョコ嫌い。
肌が赤くなるから」
彼はそう呟くと教室へと向かって行ってしまった。
グラウンドに、やはりめぐはいた。
「めぐー、チョコー!」
私が芝生から怒鳴ると、素振りをしていためぐは顔を輝かせて走ってくる。
「腹減ってたんだ、丁度!
猿渡有難う!」
そう言うめぐの声の低さと、彼の体の逞しさに、私は複雑な気分になる。
「お返しは?」
「ないよ。俺、今年は男子だから」
「いや、去年もあんたバレンタイン不参加だったじゃん」
すかさず突っ込みを入れて、私は芝生を離れた。
暫くして背後から名前を呼ばれる。
「これ、誰かのと間違えたんじゃない?
なんか本命っぽいんだけど!」
――うわっ、やっぱ通じてない!
膝から崩れ落ちそうになるのを堪えて私は振り返る。
「間違ってないよ!」
そう言うと、めぐは一瞬ポカンとした表情を浮かべた。
「さ、さんきゅ!」
ぎこちなく言われ、何だか急に恥ずかしくなってきた。
「ホワイトデー、期待してるからね」
それだけ言って慌てて教室へ戻った。
安藤ちゃんが私の席で待っていて、つっかえながら「どうだった?」と聞いてくれる。
私は苦笑いを浮かべながら頬をかいた。
「イマイチ通じてなかった気がするねんけど…」
私はいつでもリーダー気質で、美人で、優等生で、女子たちの人気者なわけで。
恋愛なんてしている暇がなかったんだ。
超弩級に初心者なんだ。
そう心の中で呟きながら、妙にカッコよくなってしまった日野萌改め日野恵一を眺める。
出会った時からいつだってそう。
君の前だけ不器用な私。