・*不器用な2人*・
第2章/予期せぬ再会
グラウンドを囲むようにして広々とスペースをとっている芝生は、私が入学式の時に見付けた1人になれる場所だった。

入学式の日も、昨日も、教室に居辛い時はここに来ていた。

先輩たちの中にもクラスにとけ込めない人はいるようで、私以外にも生徒はいたけれど、別に気にはならなかった。

芝生の上で体操座りをし、ふぅと息を吐く。

新しい環境でたくさん友達を作ろう…。

高校が決まった時、私はそう決心した。

なのにまるでダメだ。




グラウンドで走る野球部員たちをジッと眺めていた時だった。

風に乗って手元まで紙が飛んできた。

私は慌てて紙を拾う。

野球部への入部届だった。

辺りを見渡すと、ちょうどこちらに向かって男子が走って来るところだった。

「すみません、拾ってもらってありがとうございます。」

早口にそう言うと、走ってきた生徒は私からすばやく入部届をひったくった。

その若干感じ悪い態度にムッとしながら彼を見上げ、私は思わず「あ」と言った。

私とほぼ同時に、相手も声をあげた。




「風野?風野綾瀬?」

精悍な顔立ちの男子は私の名前を繰り返して呟いた。

私は言葉が出ずに口をパクパクさせたまま、首を縦に振った。

「梶君、だよね。」

私が彼の顔面を失礼にも指さしながら言うと、彼もやはりポカンとしたまま首を縦に振った。

「小学生の卒業式以来じゃん。
すごい偶然。」

すっかり中身が小学生の頃に戻ってしまった。

学校内に知り合いがいたということに安心した私は、思わず明るい声で言った。

梶君も表情を和らげながら、私の隣りに腰をおろす。

「風野って小学生の時頭よかったじゃん。
何でうちの学校にいるの。」

ストレートな言い方の梶君に思わず苦笑しながら、私は「色々あって…」とごまかした。




「梶君、どこのクラスなの?」

「D組。風野は?」

「私はA組。結構離れてるね。」

そんな会話をしながら、私たちはグラウンドへと向かっていく。

ランニングをしていた野球部員の1人がwたしたちに気付いたらしく、駆け寄ってくる。

「君、入部希望者?

あ、入部届持ってきてくれたんだ。

判子押すからちょっとクラブハウス来て。」

部員はそう早口に言うと、クラブハウスへと入って行った。

「私、そろそろ教室戻るね。」

私がいたら邪魔だろうと思い、私はそう言った。

梶君は「分かった」と一言言うと、クラブハウスの中へと入っていってしまった。

私も彼に背を向けて、嫌々ながら教室へと引き返す。

まだあんな噂が横行しているかと思うと、少しだけ気が重かった。




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