・*不器用な2人*・
第21話/初キス
「……最近綾瀬ちゃんの元気がない。」
めぐちゃんの言葉に、私はハッと顔を上げた。
HRでのグループ作業の最中なのに、ボーッとしてしまっていた。
「木山弟も今まで以上に暗くなってるし、何でそんなにシンクロしてるの。」
そう言われ、私は慌てて淳君の座っているはずの席を振り返る。
そしてすぐに肩を落とした。
彼の咳は相変わらずの空席となっていた。
「もしかして木山淳のこと好きなの?」
そう言われ、私は思わず大声で「違うよ!」と言ってしまった。
一緒に作業をしていた女子たちが驚いたように私を見る。
何をムキになっているの?というような不思議そうな表情に、私は慌てて声のトーンを下げる。
「ただ、クラスメートじゃん。気になるんだよ。」
そう答えると、隣りに座っていた女子が急に私の髪を撫でて来た。
「風野ちゃん超いい子!!
めぐもこの性格の良さを見習えばいいのに!!」
セットした髪を掻き混ぜられ、私は抵抗していいのかダメなのか分からずにされるがままになる。
貶されためぐちゃんは頬を膨らませて、「綾瀬ちゃんだって結構性格悪いよ」と小声で言う。
「でも確かに心配だよね。
あいつ、綾瀬ちゃんと同じ時期に学校来てなかったし。」
めぐちゃんは小さくそう言って、拗ねたように唇を尖らした。
屋上でお昼の最中に、めぐちゃんが木山君に淳君のことを尋ねた。
木山君は以前のように笑顔のまま「知らない」と答え、一切の関心も示さずにジュースをすする。
梶君が気まずそうに私に視線を送ってきたので、私も肩をすくめながら苦笑を返した。
「知らないって……。あれでもお前の弟だろ?」
浅井君が木山君の言葉に眉をひそめて言う。
彼の不機嫌を察したのか、木山君も急に真顔に戻った。
「悪いけど、同じ腹から生まれたってだけで生まれてからずっと別々の家で育ったし、兄弟として意識したことなんて1度もないから。」
その言葉に、屋上の空気が一気に悪くなった。
「そんな言い方……」
そう言いかけて浅井君は言葉を飲み込んだ。
彼はイラだったようにお弁当を片付けると、屋上から去って行ってしまった。
残された私たちは、お互いに目配せをしながら木山君の様子を伺う。
彼は空になったジュースパックを握りつぶすと面倒そうに立ち上がった。
「俺とあいつは他人だから。あまりそういう話するなよ。」
そう言うと、木山君も屋上から出て行ってしまった。
放課後。
木山君と浅井君は部活へ行ったけれど、梶君とめぐちゃんと私はそのまま下校することにした。
駅へと向かいながら、めぐちゃんはずっと不機嫌を露わにしていた。
「木山君、お兄さんっぽい雰囲気が好きだったけど、なんか幻滅。」
その言葉に、梶君は「それ本人には言うなよ」と釘を刺した。
めぐちゃんは不満げだったけれど、私は梶君の言うことを信じてみようと思った。
木山君が理由もなしにあんな発言を繰り返すとは到底思えなかった。
けれど。
彼が家に来た時に言った「淳に電話をかけさせた」という言葉は、最近ずっと頭の中に渦巻いていた。
木山君が、わざと淳君に嫌な役をさせたのではないかと、そんな汚い考えが浮かんでしまった。
駅でめぐちゃんと別れ、梶君と一緒に自宅へと向かう。
「もうすぐ遠足だね。」
私がそう言うと、梶君は遠くを見ながら「そうだね」と呟く。
そっと手を触れると、握り返してもらえて安心する。
「木山の弟とも、一緒に回れるといいな。」
その言葉に私は小さく頷いた。
いつの間にか、公園まで来ていた。
私の家はすぐそこだった。
「駅からあっという間だね。」
笑いながら私が言うと、ずっと支線を逸らしていた梶君がフッとこちらを見た。
彼は私の頬へと手を伸ばした。
ひんやりとした感触がする。
「キスって、嫌?」
そう言われ、私は慌てて周りを見た。
小学生たちは、1人もいなかった。
通りを車が数台走っているだけだ。
少しだけ気恥ずかしいと思いながらも、私は「大丈夫」と答える。
ゆっくりと目を閉じると、唇に梶君の唇が重なった。
――初めてだ。
ふと思う。
キスなんて、初めてだった。
こんな感触がするのかと、ボーッと考えながら、私は梶君の手を握った。
めぐちゃんの言葉に、私はハッと顔を上げた。
HRでのグループ作業の最中なのに、ボーッとしてしまっていた。
「木山弟も今まで以上に暗くなってるし、何でそんなにシンクロしてるの。」
そう言われ、私は慌てて淳君の座っているはずの席を振り返る。
そしてすぐに肩を落とした。
彼の咳は相変わらずの空席となっていた。
「もしかして木山淳のこと好きなの?」
そう言われ、私は思わず大声で「違うよ!」と言ってしまった。
一緒に作業をしていた女子たちが驚いたように私を見る。
何をムキになっているの?というような不思議そうな表情に、私は慌てて声のトーンを下げる。
「ただ、クラスメートじゃん。気になるんだよ。」
そう答えると、隣りに座っていた女子が急に私の髪を撫でて来た。
「風野ちゃん超いい子!!
めぐもこの性格の良さを見習えばいいのに!!」
セットした髪を掻き混ぜられ、私は抵抗していいのかダメなのか分からずにされるがままになる。
貶されためぐちゃんは頬を膨らませて、「綾瀬ちゃんだって結構性格悪いよ」と小声で言う。
「でも確かに心配だよね。
あいつ、綾瀬ちゃんと同じ時期に学校来てなかったし。」
めぐちゃんは小さくそう言って、拗ねたように唇を尖らした。
屋上でお昼の最中に、めぐちゃんが木山君に淳君のことを尋ねた。
木山君は以前のように笑顔のまま「知らない」と答え、一切の関心も示さずにジュースをすする。
梶君が気まずそうに私に視線を送ってきたので、私も肩をすくめながら苦笑を返した。
「知らないって……。あれでもお前の弟だろ?」
浅井君が木山君の言葉に眉をひそめて言う。
彼の不機嫌を察したのか、木山君も急に真顔に戻った。
「悪いけど、同じ腹から生まれたってだけで生まれてからずっと別々の家で育ったし、兄弟として意識したことなんて1度もないから。」
その言葉に、屋上の空気が一気に悪くなった。
「そんな言い方……」
そう言いかけて浅井君は言葉を飲み込んだ。
彼はイラだったようにお弁当を片付けると、屋上から去って行ってしまった。
残された私たちは、お互いに目配せをしながら木山君の様子を伺う。
彼は空になったジュースパックを握りつぶすと面倒そうに立ち上がった。
「俺とあいつは他人だから。あまりそういう話するなよ。」
そう言うと、木山君も屋上から出て行ってしまった。
放課後。
木山君と浅井君は部活へ行ったけれど、梶君とめぐちゃんと私はそのまま下校することにした。
駅へと向かいながら、めぐちゃんはずっと不機嫌を露わにしていた。
「木山君、お兄さんっぽい雰囲気が好きだったけど、なんか幻滅。」
その言葉に、梶君は「それ本人には言うなよ」と釘を刺した。
めぐちゃんは不満げだったけれど、私は梶君の言うことを信じてみようと思った。
木山君が理由もなしにあんな発言を繰り返すとは到底思えなかった。
けれど。
彼が家に来た時に言った「淳に電話をかけさせた」という言葉は、最近ずっと頭の中に渦巻いていた。
木山君が、わざと淳君に嫌な役をさせたのではないかと、そんな汚い考えが浮かんでしまった。
駅でめぐちゃんと別れ、梶君と一緒に自宅へと向かう。
「もうすぐ遠足だね。」
私がそう言うと、梶君は遠くを見ながら「そうだね」と呟く。
そっと手を触れると、握り返してもらえて安心する。
「木山の弟とも、一緒に回れるといいな。」
その言葉に私は小さく頷いた。
いつの間にか、公園まで来ていた。
私の家はすぐそこだった。
「駅からあっという間だね。」
笑いながら私が言うと、ずっと支線を逸らしていた梶君がフッとこちらを見た。
彼は私の頬へと手を伸ばした。
ひんやりとした感触がする。
「キスって、嫌?」
そう言われ、私は慌てて周りを見た。
小学生たちは、1人もいなかった。
通りを車が数台走っているだけだ。
少しだけ気恥ずかしいと思いながらも、私は「大丈夫」と答える。
ゆっくりと目を閉じると、唇に梶君の唇が重なった。
――初めてだ。
ふと思う。
キスなんて、初めてだった。
こんな感触がするのかと、ボーッと考えながら、私は梶君の手を握った。