・*不器用な2人*・
第4章/同じ言葉なのに
翌日。
私が教室へ入った途端、クラス内が急に静まった。
直前まで私のことについて話していたのだろうか、女子たちは気まずそうに顔を見合わせながら、不自然に会話を再開させる。
女子と一緒にいる男子たちはあからさまに顔をにやけさせながらちらちらとこちらを見ていた。
イヤな空気…。
私はこのまま席に着いていいのか、教室から出てしまっていいのか、しばし迷った後に着席することにした。
「ちょっと、誰か話しかけなよ。」
そんな声が聞こえてきて、ついでに笑い声もあちこちから聞こえた。
「えー、だって不登校になっちゃうかもよー。」
その言葉に私は傷付いたけれど、「傷付いた」という態度だけはとらないように心掛けた。
幸い前の席の生徒はそういった話題に疎いらしく、教室の空気を無視して雑誌を読み耽っている。
彼さえいなければ、私は「クラス全員が私の敵」という被害妄想に陥ってしまったかもしれない。
背中の広い茶髪の生徒に心の中で頭を下げながら、私は大きく息を吐いた。
昼休み、浅井君が教室まで呼びに来た。
「天気いいから一緒に屋上で飯食おうって梶が言ってるよー。」
教室中の視線がこちらに集まっているのに気付きながら、私は二つ返事をした。
お弁当を持って浅井君と一緒に教室を出る。
「この学校の屋上って開放されてたんだね。」
私が感心しながら言うと、浅井君は笑いながら「閉鎖してたよ」と言った。
「屋上に行ったら鍵が閉まってたから色々試してみたんだけど……。
最終的には梶の家の鍵で開いちゃった。」
いいのだろうか……。
優等生だった頃のクセで私はそんな心配をチラとしてしまったが、ここで反対して「つまらない奴」と思われるのもいやだったので、笑いながら後についていった。
屋上へ行くと、私の顔を見た梶君は「びっくりした」と低い声で言った。
「何が何でも規則は破らないって言って反対するとばかり思っていたのに……。」
すっかりお見通し名ことを言われて私は肩をすくめる。
「反対しようと思ったんだけど、空気読んでみた。」
素直にそう言うと、梶君は少しだけ笑ってくれた。
みんなで思い思いの場所に座り、お弁当を広げる。
砂がご飯に入らないようにしながら、私たちは黙々とお弁当を食べた。
「風野さんってクラスに友達いるの?」
みんながお弁当をしまい始める頃、浅井君がまたも直球な質問をしてきた。
梶君が苦笑いを浮かべながら、「おまえって本当に歯に衣着せぬ言い方するよな」と呟いた。
私もためらいながら頷く。
「風野さん美人だし、男子がほかっておかないと思うんだけど。」
浅井君に続いて言われ、私はまんざらでもない気分になりながらも手を胸の前でパタパタと振った。
「私、気のきいた会話とかできないから男子に嫌われてるよ。」
私はそう言いながら、今朝のクラスの空気を思い出して少しだけ気持ちが暗くなってしまった。
「風野は昔から面白くないもんな。」
そんなことを言ったのは梶君だった。
私はハッと顔を上げた。
面白くない、その言葉がストレートに胸に刺さったのはどうしてだろう。
私が笑い返せずにいるのを察した他の男子が、梶君を軽く小突いた。
「うん。
面白くないよね、私。」
やっとのことでそれだけ言えたけれど、笑うことだけはどうしてもできなかった。
私は急いで荷物をまとめると、次の授業の準備をするという言い訳をして屋上を立ち去った。
「風野さん、ちょっと待って。」
教室へ辿り着く直前に声をかけられた。
浅井君でも梶君でもない人だった。
「誰、だっけ。」
名前が分からず失礼を承知でたずねると、彼は少しだけ眉を下げながら「木山」と答えた。
野球部とはにわかに信じがたい茶髪が、梶君や浅井君とは違う雰囲気を映えさせる。
特に意識していなかったけれど、ここ2日間、よく彼に目がいったことを思い出す。
「梶の言ったこと、気にしてる?」
そう聞かれた。
どうして彼ら野球部はこうも直球なのだろうと心の中で思いながら、私は答えに困った。
「気にしていないよ。」
その結果、嘘をついた。
木山君は「そっか」と言うとようやく笑った。
「梶も気にしていないと思うよ。」
誰もが、自分の発言なんて気にしていない。
クラスメートたちだって、そう。
自分たちの言っていることが私を傷付けていることなんてちっとも気付いていない。
思ったことをそのまま口にしているだけ。
言葉を吟味してノロノロとしゃべる自分の方がおかしいのだと分かっていながらも、どうしても周りとのギャップについていけずにいた。
梶君でない人だったらきっとここまで落ち込まなかっただろう。
小学校が一緒で、なんとなく懐いていた相手に言われたからだ。
つまらない、面白くない……そんな言葉は言われ慣れているのに。
私が教室へ入った途端、クラス内が急に静まった。
直前まで私のことについて話していたのだろうか、女子たちは気まずそうに顔を見合わせながら、不自然に会話を再開させる。
女子と一緒にいる男子たちはあからさまに顔をにやけさせながらちらちらとこちらを見ていた。
イヤな空気…。
私はこのまま席に着いていいのか、教室から出てしまっていいのか、しばし迷った後に着席することにした。
「ちょっと、誰か話しかけなよ。」
そんな声が聞こえてきて、ついでに笑い声もあちこちから聞こえた。
「えー、だって不登校になっちゃうかもよー。」
その言葉に私は傷付いたけれど、「傷付いた」という態度だけはとらないように心掛けた。
幸い前の席の生徒はそういった話題に疎いらしく、教室の空気を無視して雑誌を読み耽っている。
彼さえいなければ、私は「クラス全員が私の敵」という被害妄想に陥ってしまったかもしれない。
背中の広い茶髪の生徒に心の中で頭を下げながら、私は大きく息を吐いた。
昼休み、浅井君が教室まで呼びに来た。
「天気いいから一緒に屋上で飯食おうって梶が言ってるよー。」
教室中の視線がこちらに集まっているのに気付きながら、私は二つ返事をした。
お弁当を持って浅井君と一緒に教室を出る。
「この学校の屋上って開放されてたんだね。」
私が感心しながら言うと、浅井君は笑いながら「閉鎖してたよ」と言った。
「屋上に行ったら鍵が閉まってたから色々試してみたんだけど……。
最終的には梶の家の鍵で開いちゃった。」
いいのだろうか……。
優等生だった頃のクセで私はそんな心配をチラとしてしまったが、ここで反対して「つまらない奴」と思われるのもいやだったので、笑いながら後についていった。
屋上へ行くと、私の顔を見た梶君は「びっくりした」と低い声で言った。
「何が何でも規則は破らないって言って反対するとばかり思っていたのに……。」
すっかりお見通し名ことを言われて私は肩をすくめる。
「反対しようと思ったんだけど、空気読んでみた。」
素直にそう言うと、梶君は少しだけ笑ってくれた。
みんなで思い思いの場所に座り、お弁当を広げる。
砂がご飯に入らないようにしながら、私たちは黙々とお弁当を食べた。
「風野さんってクラスに友達いるの?」
みんながお弁当をしまい始める頃、浅井君がまたも直球な質問をしてきた。
梶君が苦笑いを浮かべながら、「おまえって本当に歯に衣着せぬ言い方するよな」と呟いた。
私もためらいながら頷く。
「風野さん美人だし、男子がほかっておかないと思うんだけど。」
浅井君に続いて言われ、私はまんざらでもない気分になりながらも手を胸の前でパタパタと振った。
「私、気のきいた会話とかできないから男子に嫌われてるよ。」
私はそう言いながら、今朝のクラスの空気を思い出して少しだけ気持ちが暗くなってしまった。
「風野は昔から面白くないもんな。」
そんなことを言ったのは梶君だった。
私はハッと顔を上げた。
面白くない、その言葉がストレートに胸に刺さったのはどうしてだろう。
私が笑い返せずにいるのを察した他の男子が、梶君を軽く小突いた。
「うん。
面白くないよね、私。」
やっとのことでそれだけ言えたけれど、笑うことだけはどうしてもできなかった。
私は急いで荷物をまとめると、次の授業の準備をするという言い訳をして屋上を立ち去った。
「風野さん、ちょっと待って。」
教室へ辿り着く直前に声をかけられた。
浅井君でも梶君でもない人だった。
「誰、だっけ。」
名前が分からず失礼を承知でたずねると、彼は少しだけ眉を下げながら「木山」と答えた。
野球部とはにわかに信じがたい茶髪が、梶君や浅井君とは違う雰囲気を映えさせる。
特に意識していなかったけれど、ここ2日間、よく彼に目がいったことを思い出す。
「梶の言ったこと、気にしてる?」
そう聞かれた。
どうして彼ら野球部はこうも直球なのだろうと心の中で思いながら、私は答えに困った。
「気にしていないよ。」
その結果、嘘をついた。
木山君は「そっか」と言うとようやく笑った。
「梶も気にしていないと思うよ。」
誰もが、自分の発言なんて気にしていない。
クラスメートたちだって、そう。
自分たちの言っていることが私を傷付けていることなんてちっとも気付いていない。
思ったことをそのまま口にしているだけ。
言葉を吟味してノロノロとしゃべる自分の方がおかしいのだと分かっていながらも、どうしても周りとのギャップについていけずにいた。
梶君でない人だったらきっとここまで落ち込まなかっただろう。
小学校が一緒で、なんとなく懐いていた相手に言われたからだ。
つまらない、面白くない……そんな言葉は言われ慣れているのに。