・*不器用な2人*・
第40章/体育祭のリレー
体育祭当日。
自分の競技がない時間は、校内で自分に行動することが許可されている。
出番がほとんどない私は、屋上で時間が過ぎるのを待っていた。
野球部のメンバーたちが交互に出入りしては、声をかけてくれる。
お菓子をお裾分けしてもらったり、数分前にグラウンドであった出来事を教えてもらったり…退屈することはあまりなかった。
浅井君と井上君は、体育祭が盛り上がり始めた頃ようやく屋上に来てくれた。
元々体育会系の浅井君と、彼と仲の良い井上君は、午前中の競技に殆ど出場したらしい。
「そう言えば、木山兄弟来てないの?」
浅井君に言われて、私は首を横に振る。
朝から姿が見えないから、本当に欠席したのではないかと考えていたところだ。
「淳君も木山君も今日まったく姿見てないけど……」
そんな話をしていた最中、めぐちゃんが屋上へと飛び込んで来た。
「今日リレーの補欠の子欠席だって!!
何が何でも木山淳連れて来いって級長が言ってるんだけど!!」
ヘラヘラと笑っていた浅井君と、無表情に空を見上げていた井上君の表情が一瞬で崩れた。
下駄箱に淳君の靴が入っているのを確認し、めぐちゃんは大きく舌打ちをする。
「綾瀬ちゃん、あいつが行きそうな場所知らない?」
そう聞かれ、私は即座に「知らない」と答えた。
私が思い付くような場所に淳君がサボリに行くわけがない。
浅井君はリレーに出るらしくグラウンドへ戻っていってしまったので、井上君が私たちに付き合ってついて来てくれる。
「井上君は?心当たり無い?」
めぐちゃんに振り返られた井上君は低い声で「分からない」と答えた。
即座にめぐちゃんが「使えないな」と呟く。
とりあえず旧校舎にでも探しに行こうとした時だった。
「風野ー、日野ー。」
競技が終わったばかりなのかタオルを肩に掛けた梶君が、校舎へと入って来た。
「淳確保したけど何処に連れていけばいい?」
梶君はひょいと首根っこを掴んで淳君を私たちの前に差し出す。
梶君より背が高いはずの淳君はすっかりちいさくなったままムッとした表情を浮かべていた。
「アンカーなんだよ?
みんなに頼られているんだよ?
何で平気でサボれるわけ?」
めぐちゃんに大声で怒鳴られて、淳君は拗ねた表情のままそっぽを向く。
端から見ると、小学生のような絵面だ。
「頼られても困るっていうか…、別に俺やるなんて一言も…。」
ぼそぼそと呟き続ける淳君の胸ぐらをめぐちゃんが勢いよく掴み上げるのを、慌てて梶君が止めた。
淳君は絞められかけた胸をさすりながら更に拗ねてしまう。
「もしかして淳君、ジャージ脱ぐのが嫌なの?」
遠目から見ていた井上君に言われ、淳君がそっと顔を上げた。
先程まで怒っていためぐちゃんの表情が瞬時に変わる。
――忘れてた。
私も思った。
単に面倒だから、目立ちたくないから…そんな理由でサボるのだとばかり思っていた。
淳君がゆっくりと頷くと、梶君が呆れたような表情を浮かべながら、彼の背中をポンポンと叩いた。
「何、木山リレー出ないの?」
不意に背後から声がかかり、ハッとした。
鈴木君とその取り巻きが、下駄箱の入口を塞いで立っていた。
「なんなら俺が出てやってもいいけど」
鈴木君の言葉にめぐちゃんがムッとしたような表情を浮かべた。
「その代わり、Aクラスが1位になったら風野さんが鈴木と付き合うってことで。」
彼の取り巻きにニヤニヤと笑いながら言われ、私は自分の頬が熱くなるのを感じた。
――何それ。
思わず俯いてしまった私を気づかうように井上君と梶君が私の前に立った。
「ってことで、俺らちょっと担任に言ってくるわ」
笑いながら鈴木君たちがその場を立ち去ろうとした時だった。
淳君が鈴木君の肩を掴んだ。
鈴木君がギョッとしたように振り返る。
「俺が走るから、そういう悪ふざけやめろよ。」
低い声で言うと、淳君はその場でジャージを脱ぎ、私へと投げつける。
私は慌てて受け止めた。
初めて見る淳君の素肌に私は一瞬息を呑んだ。
めぐちゃんが慌てたように目を逸らすのが、傍にいてハッキリと分かった。
「うわ、きもっ」
そう呟いた鈴木君を、淳君は見上げた。
「交換条件で女子と付き合おうとするお前の方がきもい」
ボソッと呟くと、彼はサッサとグラウンドへと向かって行ってしまった。
慌てたようにめぐちゃんや井上君がその後を追う。
梶君に手を取られ、私も急いでその場から離れた。
そっと後ろを振り返ると、茫然としていた鈴木君と丁度目が合ってしまった。
心の中で「ごめんなさい」と呟きながらも、私は梶君の手をしっかりと握り返した。
リレーが始まる頃。
観客席にいたAクラスの生徒たちは、整列している淳君を見てザワついていた。
「何あれ…」
ヒソヒソ声が聞こえる中、鈴木君たちが不愉快そうな表情を浮かべて淳君を睨んでいた。
「あいつ、また1回絞めないとさー…」
鈴木君たちの言葉が聞こえていたのか、めぐちゃんが彼らの元へと駆け寄って行き、身近にいた男子を勢いよく蹴った。
一瞬驚いたような表情を浮かべた彼らはすぐに強気に立ち上がり、めぐちゃんを見下ろした。
「何だよ、日野。」
鈴木君の低い声に、めぐちゃんも負けじとドスをきかせる。
「あんたたち、そんなだから淳にきもいなんて言われるんだよ!
集団で固まってコソコソと、端から見ててガチでイタいよ?」
めぐちゃんの言葉に一瞬呆気にとられていた彼らは、すぐに舌打ちをして目配せをすると、何処かへと姿を消してしまった。
自分の競技がない時間は、校内で自分に行動することが許可されている。
出番がほとんどない私は、屋上で時間が過ぎるのを待っていた。
野球部のメンバーたちが交互に出入りしては、声をかけてくれる。
お菓子をお裾分けしてもらったり、数分前にグラウンドであった出来事を教えてもらったり…退屈することはあまりなかった。
浅井君と井上君は、体育祭が盛り上がり始めた頃ようやく屋上に来てくれた。
元々体育会系の浅井君と、彼と仲の良い井上君は、午前中の競技に殆ど出場したらしい。
「そう言えば、木山兄弟来てないの?」
浅井君に言われて、私は首を横に振る。
朝から姿が見えないから、本当に欠席したのではないかと考えていたところだ。
「淳君も木山君も今日まったく姿見てないけど……」
そんな話をしていた最中、めぐちゃんが屋上へと飛び込んで来た。
「今日リレーの補欠の子欠席だって!!
何が何でも木山淳連れて来いって級長が言ってるんだけど!!」
ヘラヘラと笑っていた浅井君と、無表情に空を見上げていた井上君の表情が一瞬で崩れた。
下駄箱に淳君の靴が入っているのを確認し、めぐちゃんは大きく舌打ちをする。
「綾瀬ちゃん、あいつが行きそうな場所知らない?」
そう聞かれ、私は即座に「知らない」と答えた。
私が思い付くような場所に淳君がサボリに行くわけがない。
浅井君はリレーに出るらしくグラウンドへ戻っていってしまったので、井上君が私たちに付き合ってついて来てくれる。
「井上君は?心当たり無い?」
めぐちゃんに振り返られた井上君は低い声で「分からない」と答えた。
即座にめぐちゃんが「使えないな」と呟く。
とりあえず旧校舎にでも探しに行こうとした時だった。
「風野ー、日野ー。」
競技が終わったばかりなのかタオルを肩に掛けた梶君が、校舎へと入って来た。
「淳確保したけど何処に連れていけばいい?」
梶君はひょいと首根っこを掴んで淳君を私たちの前に差し出す。
梶君より背が高いはずの淳君はすっかりちいさくなったままムッとした表情を浮かべていた。
「アンカーなんだよ?
みんなに頼られているんだよ?
何で平気でサボれるわけ?」
めぐちゃんに大声で怒鳴られて、淳君は拗ねた表情のままそっぽを向く。
端から見ると、小学生のような絵面だ。
「頼られても困るっていうか…、別に俺やるなんて一言も…。」
ぼそぼそと呟き続ける淳君の胸ぐらをめぐちゃんが勢いよく掴み上げるのを、慌てて梶君が止めた。
淳君は絞められかけた胸をさすりながら更に拗ねてしまう。
「もしかして淳君、ジャージ脱ぐのが嫌なの?」
遠目から見ていた井上君に言われ、淳君がそっと顔を上げた。
先程まで怒っていためぐちゃんの表情が瞬時に変わる。
――忘れてた。
私も思った。
単に面倒だから、目立ちたくないから…そんな理由でサボるのだとばかり思っていた。
淳君がゆっくりと頷くと、梶君が呆れたような表情を浮かべながら、彼の背中をポンポンと叩いた。
「何、木山リレー出ないの?」
不意に背後から声がかかり、ハッとした。
鈴木君とその取り巻きが、下駄箱の入口を塞いで立っていた。
「なんなら俺が出てやってもいいけど」
鈴木君の言葉にめぐちゃんがムッとしたような表情を浮かべた。
「その代わり、Aクラスが1位になったら風野さんが鈴木と付き合うってことで。」
彼の取り巻きにニヤニヤと笑いながら言われ、私は自分の頬が熱くなるのを感じた。
――何それ。
思わず俯いてしまった私を気づかうように井上君と梶君が私の前に立った。
「ってことで、俺らちょっと担任に言ってくるわ」
笑いながら鈴木君たちがその場を立ち去ろうとした時だった。
淳君が鈴木君の肩を掴んだ。
鈴木君がギョッとしたように振り返る。
「俺が走るから、そういう悪ふざけやめろよ。」
低い声で言うと、淳君はその場でジャージを脱ぎ、私へと投げつける。
私は慌てて受け止めた。
初めて見る淳君の素肌に私は一瞬息を呑んだ。
めぐちゃんが慌てたように目を逸らすのが、傍にいてハッキリと分かった。
「うわ、きもっ」
そう呟いた鈴木君を、淳君は見上げた。
「交換条件で女子と付き合おうとするお前の方がきもい」
ボソッと呟くと、彼はサッサとグラウンドへと向かって行ってしまった。
慌てたようにめぐちゃんや井上君がその後を追う。
梶君に手を取られ、私も急いでその場から離れた。
そっと後ろを振り返ると、茫然としていた鈴木君と丁度目が合ってしまった。
心の中で「ごめんなさい」と呟きながらも、私は梶君の手をしっかりと握り返した。
リレーが始まる頃。
観客席にいたAクラスの生徒たちは、整列している淳君を見てザワついていた。
「何あれ…」
ヒソヒソ声が聞こえる中、鈴木君たちが不愉快そうな表情を浮かべて淳君を睨んでいた。
「あいつ、また1回絞めないとさー…」
鈴木君たちの言葉が聞こえていたのか、めぐちゃんが彼らの元へと駆け寄って行き、身近にいた男子を勢いよく蹴った。
一瞬驚いたような表情を浮かべた彼らはすぐに強気に立ち上がり、めぐちゃんを見下ろした。
「何だよ、日野。」
鈴木君の低い声に、めぐちゃんも負けじとドスをきかせる。
「あんたたち、そんなだから淳にきもいなんて言われるんだよ!
集団で固まってコソコソと、端から見ててガチでイタいよ?」
めぐちゃんの言葉に一瞬呆気にとられていた彼らは、すぐに舌打ちをして目配せをすると、何処かへと姿を消してしまった。