・*不器用な2人*・
第42章/触れるということ
「びっくりした?」

紅茶を淹れながら保険医さんに聞かれ、私は思わず苦笑いを浮かべた。

「びっくりしなかったと言えば嘘になりますけれど…。」

浅井君と梶君は騎馬戦に参加する為にグラウンドへと行ってしまった。

ココへと木山君を運んだのは、あの2人だった。

「触っちゃ駄目なんですか?」

私が訊ねると、保険医さんはあっさりと頷いた。

「私、木山君の頭撫でたことあるんですけど…」

花火の時のことを思い出しながら私は言った。

「そういうのはよくて…。

彼の場合は、いきなり身体を掴まれたり手を伸ばされたりすると、暴力を振るわれる恐怖を感じてパニックを起こすの。

風野さんは恐怖対象でない上に、頭を撫でられることは彼にとって嫌な行為ではなかったってことだよ。」

保険医さんにおっとりと言われ、私は飲んでいた紅茶をテーブルへと置いた。

「触られるのが怖いってことですか?」

私の言葉に、彼女は頷く。

「たまにいるの。

少し肩が触れただけで、少し手が重なっただけで過剰に反応してしまう人。

育った環境とかが影響するし、生まれつきってこともあるから、簡単に治せるものではない。

だから、周りの理解と協力が必要なの。

大勢で囲んだり、一斉に手を伸ばしたり…威圧感を与えるようなkとおをすると、彼はパニックを起こして、今日みたいに暴れたり意識を失ったりするんだよ。」

――育った環境。

ふと思い出すのは、やはり花火の時のこと。

木山君は妙な痕がたくさん残る顔をフードで隠しながら、「親が」と呟いていた。

淳君とは違う家出育ったといつも言っているけれど、2人はそれぞれの家庭のことを喋ろうとはしていない。




保険医さんがDクラスの担任に報告に行った後だった。

閉まっていたカーテンが開き、木山君が出てきた。

疲れた表情を浮かべた木山君は、私に気付くと気まずそうに視線を逸らす。

「大丈夫?」

私の言葉に彼はゆっくりと頷いて、床にしゃがみこんだ。

「どうしたの?大丈夫?」

慌てて近付こうとする私を木山君は片手で制する。

「もう駄目だ」

掠れた声で彼がそう言った。

「駄目って、何が?」

私は彼を見下ろしながらできるだけ穏やかな声で言う。

木山君は膝に顔を埋めながらまた小声で答える。

「梶に嫌われた」


「嫌われたって…何で?」

私が訊ねても木山君は顔を上げようとしない。

「殴ったから」

掠れた声でまたそう呟いて、木山君は苛立たしげに髪を掻く。

「大丈夫だよ、そんなの全然」

私の言葉に彼は首を振る。

「絶対に嫌われた。もう友達なんて思ってもらえない…」

ボソボソと呟く木山君の前に、私は腰を下ろした。

「木山君」

そう呼びかけると、彼は顔を上げる。

「大丈夫?」

私が何度目か分からない言葉を口にすると、彼はようやく頷いた。

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