・*不器用な2人*・
翌朝。下駄箱のところで浅井君と木山君に会った。
久し振りに会う木山君はまるで体育祭のことがなかったかのように、今まで通り私に挨拶をしてきた。
私も自然に返したかったけれど、声は上擦ってしまった。
「じゃあ、また今度CD貸すから」
「って言って持ってきた試しないじゃん木山」
2人は賑やかに話ながら下足室を出て行こうとし、私を振り返った。
「正月、もし家の人がいいって言ったら風野さんも一緒に初詣行こう」
木山君に笑顔で言われ、私はおずおずと頷いた。
初詣なんて初めてだ、と了承してからフッと思った。
「え、浅井君のことフッたの?」
3限目の自習時間中、めぐちゃんから報告された私は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
めぐちゃんは慌ててシーッと顔を歪めてから、椅子に座り直す。
「今でも好きだけど、付き合いたいっていうのとはなんか違った」
長い間答えを先延ばしにした割に、ハッキリとしない理由だと思った。
ケータイをいじりながら大きく溜息をつくめぐちゃんに何も気の利いたことが言えず、私は自分の前の席へとそっと視線を動かした。
淳君が机に突っ伏したままジッとしていた。
「あれって寝てるの?」
私がめぐちゃんに訊ねると、めぐちゃんは「起きてるんじゃない?」と立ち上がる。
「淳、生きてるー?」
めぐちゃんが近付いて行くと、淳君はすぐに起き上がる。
やはり起きていたらしい。
マスクで顔の半分を覆っている淳君は怠そうに私たちを見上げ、「何?」と聞いてくる。
「風邪でもひいてるの?」
私が訊ねると、淳君は首を横に振りながらマスクを手に掛ける。
「別に風邪とかじゃないから平気なんだけど…」
そう言いながら、淳君はなり出したケータイを急いで開き、ギョッとしたように目を見開いた。
「俺、ちょっと行って来る」
「行くって何処に?」
立ち上がった淳君は私たちを見下ろしながら「薫のとこ」と小声で言った。
「そう言えば前も薫のとこ行くって言ってた…」
私が呟くと、めぐちゃんが驚いたように目を見開く。
薫という人と知り合いなのだろうか。
私が言葉を続けずにいると、めぐちゃんは気まずそうに言った。
「薫ってさ…、木山君の名前だよ」
めぐちゃんの言葉に私は慌てて席を立った。
廊下を走って行くと、階段で淳君に追いつけた。
私が声を掛けると淳君はすぐに振り返る。
その顔へと手を伸ばすと、彼は慌てたようにマスクを掴み直す。
「それ、外して」
私がキツい声で言うと、彼はあからさまに顔を顰めたけれど、大人しくマスクを外す。
唇に、縦に傷が入っていた。
「どうしたのそれ」
私が訊ねると、淳君は気まずそうに視線を泳がせたものの、「急いでるから」と呟いて階段を下りて行ってしまった。
昼休み。
屋上に集まった時に再び初詣の話が出た。
「俺、初詣とか行ったことないや」
梶君が笑いながら言うのを聞いて、私もここぞとばかりに頷いた。
私たちの住む地域にそんな習慣はなかったのだ。
「めぐも一緒に来る?」
浅井君に聞かれためぐちゃんは一瞬表情を強張らせたものの、すぐに「行く」と頷いた。
そんな彼らを横目で見ながら井上君はパックジュースを飲んでいた。
屋上から教室へと帰る途中、梶君に声を掛けられた。
「クリスマス、よかったら一緒に出かけない?」
私は即座に「2人で?」と聞き返す。
梶君に頷かれ、私は一瞬で頬が紅潮してしまった。
「行きたい」
そう言うと、梶君はすぐに笑顔になって、私の肩を数度叩くとサッサと階段を下りて行ってしまった。
久し振りに会う木山君はまるで体育祭のことがなかったかのように、今まで通り私に挨拶をしてきた。
私も自然に返したかったけれど、声は上擦ってしまった。
「じゃあ、また今度CD貸すから」
「って言って持ってきた試しないじゃん木山」
2人は賑やかに話ながら下足室を出て行こうとし、私を振り返った。
「正月、もし家の人がいいって言ったら風野さんも一緒に初詣行こう」
木山君に笑顔で言われ、私はおずおずと頷いた。
初詣なんて初めてだ、と了承してからフッと思った。
「え、浅井君のことフッたの?」
3限目の自習時間中、めぐちゃんから報告された私は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
めぐちゃんは慌ててシーッと顔を歪めてから、椅子に座り直す。
「今でも好きだけど、付き合いたいっていうのとはなんか違った」
長い間答えを先延ばしにした割に、ハッキリとしない理由だと思った。
ケータイをいじりながら大きく溜息をつくめぐちゃんに何も気の利いたことが言えず、私は自分の前の席へとそっと視線を動かした。
淳君が机に突っ伏したままジッとしていた。
「あれって寝てるの?」
私がめぐちゃんに訊ねると、めぐちゃんは「起きてるんじゃない?」と立ち上がる。
「淳、生きてるー?」
めぐちゃんが近付いて行くと、淳君はすぐに起き上がる。
やはり起きていたらしい。
マスクで顔の半分を覆っている淳君は怠そうに私たちを見上げ、「何?」と聞いてくる。
「風邪でもひいてるの?」
私が訊ねると、淳君は首を横に振りながらマスクを手に掛ける。
「別に風邪とかじゃないから平気なんだけど…」
そう言いながら、淳君はなり出したケータイを急いで開き、ギョッとしたように目を見開いた。
「俺、ちょっと行って来る」
「行くって何処に?」
立ち上がった淳君は私たちを見下ろしながら「薫のとこ」と小声で言った。
「そう言えば前も薫のとこ行くって言ってた…」
私が呟くと、めぐちゃんが驚いたように目を見開く。
薫という人と知り合いなのだろうか。
私が言葉を続けずにいると、めぐちゃんは気まずそうに言った。
「薫ってさ…、木山君の名前だよ」
めぐちゃんの言葉に私は慌てて席を立った。
廊下を走って行くと、階段で淳君に追いつけた。
私が声を掛けると淳君はすぐに振り返る。
その顔へと手を伸ばすと、彼は慌てたようにマスクを掴み直す。
「それ、外して」
私がキツい声で言うと、彼はあからさまに顔を顰めたけれど、大人しくマスクを外す。
唇に、縦に傷が入っていた。
「どうしたのそれ」
私が訊ねると、淳君は気まずそうに視線を泳がせたものの、「急いでるから」と呟いて階段を下りて行ってしまった。
昼休み。
屋上に集まった時に再び初詣の話が出た。
「俺、初詣とか行ったことないや」
梶君が笑いながら言うのを聞いて、私もここぞとばかりに頷いた。
私たちの住む地域にそんな習慣はなかったのだ。
「めぐも一緒に来る?」
浅井君に聞かれためぐちゃんは一瞬表情を強張らせたものの、すぐに「行く」と頷いた。
そんな彼らを横目で見ながら井上君はパックジュースを飲んでいた。
屋上から教室へと帰る途中、梶君に声を掛けられた。
「クリスマス、よかったら一緒に出かけない?」
私は即座に「2人で?」と聞き返す。
梶君に頷かれ、私は一瞬で頬が紅潮してしまった。
「行きたい」
そう言うと、梶君はすぐに笑顔になって、私の肩を数度叩くとサッサと階段を下りて行ってしまった。