・*不器用な2人*・
第5章/女子たちの考え
放課後、教室を出ようとしたところで女子数人から呼び止められた。

彼女たちは互いに顔を見合わせながら
「ほら聞きなよー」と小声で何やら言い合っていた。

「風野さんって、梶君と仲いいの?」

1番後ろにいた女子が、他の女子の背中に隠れながらそう言ってきた。

どんな答え方をしても後で陰でからかわれるんだろうな……。

そう思いながら、「同じ小学校に通ってただけだよ」と答えた。


「えー、いいなー。
小学校一緒ってだけでお弁当も一緒に食べれちゃうんだ?」

女子が教室に聞こえるような大声で言った。

「共通の話題とかなくても家が近いと一緒に下校できちゃうんだ。
キャー、うらやましい。」

わざとらしくもう1人の女子がそう言った。

――ここまであからさまに言われるのは初めてだ。

そう思いながら私は俯いた。




悪く言われることなんてもう慣れている。

他人の目に私が実物より悪く映ってしまうということも知っている。

高校生になってすべてがすべてうまくいくなんて甘いことは考えていなかった。

でも、梶君のことについてとやかく言われるのがこんなに苦痛だとは思わなかった。


「あーあ、私も梶君と小学校が同じだったら今頃付き合ってたかもしれないのにー。」

そんな言葉を聞いて、カッと頭に血がのぼった。

「ムリに決まってるじゃん!」

思わずそう怒鳴ってしまった。

先程まで好き放題言っていた女子たちが、即座に凍りついた。

浮かべていたうすら笑いが徐々に怒りやイラだちに変わっていくのが、見ていてよく分かった。





教室に残っていた生徒たちがこちらを振り返る。

「ムリって何?

ハッキリ言うけど、風野さんみたいな地味な子よりうちらの方がずっと男子にモテるし、梶君だってうちらみたいな女子の方が好きだと思うよ?」


声を荒げて言う女子の額には、有り得ない数のニキビが浮かんでいた。

肌はカサカサ。
その上にコンシーラとファンデーションをむりやり塗りたくっている。

どう考えたってスッピンはブスだし、化粧をしていたって別に可愛くは見えない。




「ムリでしょ。
だって、あなたたちブスだもん。」

私も負けじと大声で言った。

教室が一瞬静まったのが分かった。

やがて、教室の中から「サイテー」という声がいくつも聞こえてきた。

ニキビの女子が、勢いよく私の肩を押した。

私はバランスを崩し、教室の外へ跳ね飛ばされる。

そのまま地面へ転ばなかったのは、背中を支えてもらえたからだろう。

「人を突き飛ばすなんて物騒だな。」

頭上から聞こえてきたのは、聞き覚えが充分にある梶君の声だった。

女子たちが一気にバツの悪そうな表情を浮かべる。

「お前らとは小学校が同じだったとしても、絶対に付き合いたくないわ、俺。」

梶君がボソッとそう付け加えた。





また、昨日と同じメンバーでの下校になった。

ぞろぞろと歩道に広がって歩きながら、浅井君も木山君も上機嫌だった。

「梶のあの言葉はスカッとしたな。
確かにあんな性格ブスとは付き合えないわ。」

浅井君は相変わらず言葉を選ばない。

だけど、私は思わず笑ってしまった。

「あの言いぐさはどん引きだったね。」

木山君が笑いながら言った。




みんなと別れてから、梶君と肩を並べて歩く。

「昼間、ごめん。」

梶君は表情一つ変えずにそう言った。

「気にしてないよ。」

私はいつもの調子で答えた。

本当は、「さっきはありがとう」と言いたかったけれど、その言葉はどうしても私の口から出てこなかった。

この時私は初めて、梶君に対して気恥ずかしさを覚えた。

かつての通学路を歩きながら、自分よりずっと背が高くなった梶君を見上げる。

もっと近付きたい、
もっと知りたい。


この気持ちは憧れだろうか。






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