・*不器用な2人*・
another/廊下での話
「ねえ」
不機嫌と不快を混ぜ合わせたようなドロッとした口調で声を掛けられて、私は面倒に思いながらも振り返る。
入学してから1度も顔を合わせなかった田中だか中田だか名前もろくに覚えられないような生徒は、緊張したように私を睨み付けていた。
返事をするのも面倒なので黙っていると、彼女は苛立ったように続ける。
「どうするの、修学旅行」
2年生になったらすぐに修学旅行がある。長崎に3泊4日で行くのだと、各クラスのHRで説明があったばかりだ。
「どうするって……参加するけど」
私が作った甘ったるい声で答えると、相手は「そうじゃなくって!!」とその場で地団駄を踏んだ。
「2人で1部屋なんだよ!?しかもお風呂は大浴場なんだよ!?
あんた、そういうことも全部考えてるわけ?日野!」
それがどうした…と思いながらも、私はたった1人の女友達である綾瀬ちゃんの顔を思い浮かべる。
相部屋は彼女とだ。
この1年ずっと一緒に過ごしてきた綾瀬ちゃんとなら別に同じ部屋で過ごしたって問題はないと思っている。
「お風呂はいいって。
生理って言って部屋のシャワー使うし」
「あんたその言い訳がいつまで使えると思ってるの!?
Aクラスの女子が言ってたよ!?
めぐは1ヶ月で何回生理があるんだろうねーって!」
その言葉に思わず舌打ちが漏れる。
そんなことを言っていたのは何処のどいつだ…と心中毒づきながらも、私は平然とした表情を取り繕って見せるのだ。
「別に私はやましいことなんてしていない」
そうハッキリと言ってみせた。
目の前に立っている女子とは中学が一緒だった。
散々嫌なことをされた。
最初の頃は仲良くしていたのに、他の女子とグルになって私に粘着質な嫌がらせを続けた挙げ句、「性格が悪い」だの「顔がキモい」だの散々なことを言ってきた。
その手の平の返し方に当時は唖然として言葉も出なかった。
同じ高校へ入ったと知った時、もう絶対に口なんてきいてやるもんかと思っていたくらいだ。
「綾瀬ちゃんはあんたなんかと違ってずーっと優しいし私のこと分かってくれている」
そう言うと向こうもムキになった。
「でも、あんたの本当のことを知ったらどう思うだろうね」
薄すぎる胸板にそっと手を当てれば、何の柔らかみも感じることができないままの心臓の鼓動を感じる。
どう化粧で取り繕っても、どう笑顔を作ってみせても、唯一変われないのは私のこの…。
「他の奴にバラしたら、お前のその口2度ときけないようにしてやるからな」
僕の言葉に彼女は肩を跳ね上がらせて、気まずそうな表情を浮かべると逃げて行ってしまった。
取り繕えないのは見た目や中身なんてものではけっしてなくて。
ただ成長と共に著しく表れてくる自分の性別。
あと2年、隠し通すしかないのだと分かっている。
いくら仲が良くても、みんなが受け入れてくれないことなんて、経験上悟っている。
自分の本当の名前から「一」ととっためぐみという名前は我ながら本当にダサくって、実はそんなに気に入っていない。
――早く卒業したいな。
窓の外をフッと見ると、今日もプールサイドでは暴力沙汰。
その中心で蹲っている残念なクラスメートを見ながら、僕は小さく溜息をつく。
不機嫌と不快を混ぜ合わせたようなドロッとした口調で声を掛けられて、私は面倒に思いながらも振り返る。
入学してから1度も顔を合わせなかった田中だか中田だか名前もろくに覚えられないような生徒は、緊張したように私を睨み付けていた。
返事をするのも面倒なので黙っていると、彼女は苛立ったように続ける。
「どうするの、修学旅行」
2年生になったらすぐに修学旅行がある。長崎に3泊4日で行くのだと、各クラスのHRで説明があったばかりだ。
「どうするって……参加するけど」
私が作った甘ったるい声で答えると、相手は「そうじゃなくって!!」とその場で地団駄を踏んだ。
「2人で1部屋なんだよ!?しかもお風呂は大浴場なんだよ!?
あんた、そういうことも全部考えてるわけ?日野!」
それがどうした…と思いながらも、私はたった1人の女友達である綾瀬ちゃんの顔を思い浮かべる。
相部屋は彼女とだ。
この1年ずっと一緒に過ごしてきた綾瀬ちゃんとなら別に同じ部屋で過ごしたって問題はないと思っている。
「お風呂はいいって。
生理って言って部屋のシャワー使うし」
「あんたその言い訳がいつまで使えると思ってるの!?
Aクラスの女子が言ってたよ!?
めぐは1ヶ月で何回生理があるんだろうねーって!」
その言葉に思わず舌打ちが漏れる。
そんなことを言っていたのは何処のどいつだ…と心中毒づきながらも、私は平然とした表情を取り繕って見せるのだ。
「別に私はやましいことなんてしていない」
そうハッキリと言ってみせた。
目の前に立っている女子とは中学が一緒だった。
散々嫌なことをされた。
最初の頃は仲良くしていたのに、他の女子とグルになって私に粘着質な嫌がらせを続けた挙げ句、「性格が悪い」だの「顔がキモい」だの散々なことを言ってきた。
その手の平の返し方に当時は唖然として言葉も出なかった。
同じ高校へ入ったと知った時、もう絶対に口なんてきいてやるもんかと思っていたくらいだ。
「綾瀬ちゃんはあんたなんかと違ってずーっと優しいし私のこと分かってくれている」
そう言うと向こうもムキになった。
「でも、あんたの本当のことを知ったらどう思うだろうね」
薄すぎる胸板にそっと手を当てれば、何の柔らかみも感じることができないままの心臓の鼓動を感じる。
どう化粧で取り繕っても、どう笑顔を作ってみせても、唯一変われないのは私のこの…。
「他の奴にバラしたら、お前のその口2度ときけないようにしてやるからな」
僕の言葉に彼女は肩を跳ね上がらせて、気まずそうな表情を浮かべると逃げて行ってしまった。
取り繕えないのは見た目や中身なんてものではけっしてなくて。
ただ成長と共に著しく表れてくる自分の性別。
あと2年、隠し通すしかないのだと分かっている。
いくら仲が良くても、みんなが受け入れてくれないことなんて、経験上悟っている。
自分の本当の名前から「一」ととっためぐみという名前は我ながら本当にダサくって、実はそんなに気に入っていない。
――早く卒業したいな。
窓の外をフッと見ると、今日もプールサイドでは暴力沙汰。
その中心で蹲っている残念なクラスメートを見ながら、僕は小さく溜息をつく。