・*不器用な2人*・
第51話/振りほどく
2月になるとすぐに学年末モードに切り替わる。
成績の危ない生徒は次の考査で赤点を1つでもとったら留年だと脅され、必死に問題集に齧りついていたし、出席日数が足りない生徒は朝早すぎる時間帯から登校して来てはすべての授業に参加していた。
「風野ー」
昼休みに教室を出て行こうとしたところで鈴木君たちのグループに呼び止められた。
久しぶり過ぎて何事かと身構える私に鈴木君は「別に意地悪したりしねーから」とあきれ顔のまま言う。
「おまえ普段どうやって勉強してるの」
そう言われ、私は彼らが留年危機グループだったということを思い出す。
「授業中に黒板に書かれたことは全部ノートに書きこんで、口頭で説明されたことも書きこんで、家に帰ってから復習……」
ごく一般的な勉強法を口にすると、彼らは唖然とした後、「やっぱりできる奴は頭の構造が違うんだよ」とぼやき始めた。
「悪かったな」と心の中で舌打ちしながらも、私は彼らに愛想よく手を振って教室を出た。
背後から「やっぱ可愛いよな風野」という声が聞こえてきたのは聞こえないフリをした。
学年末試験は2月末に終わり、鈴木君のグループからは2人留年が決定した。
彼らが教室の隅で「やべぇ」と呟いているのをクラスメートたちは白い目で眺めていたけれど、私は少しだけ気の毒に思った。
――頭の構造が違ったんですね。
心の中でそう呟いて、私はそっと視線を逸らした。
私が特別親しい人たちは全員進級が確定し、打ち上げモードに入りつつある。
テスト返却が終わって帰り支度を始めていた時だった。
廊下から言い争うような声が聞こえて来た。
何だろうと思い顔を出すと、案の定Dクラスの野球部だった。
木山君の退部の話は今さら蒸し返されたらしく、浅井君たちが「戻ってこいよ」と説得している最中だった。
私は梶君を見つけ、廊下へと出る。
スクールバッグを肩に掛けた木山君は彼らを振り返ることなく「嫌だ」と言いながら階段へと歩いて行っていた。
その足取りは未だに不確かで、片眼になれていないことが分かる。
階段まで来たところで、木山君はゆっくりと私たちを振り返った。
「仲間だとか1度も思ったことねーし、そういうの迷惑だから。」
疲れたようにそう言った木山君は手探りで手すりへと手を伸ばそうとし、その手が宙を掠った。
誤って後ずさりをした木山君の身体が傾くと、近くにいた生徒たちが悲鳴を上げた。
手摺りを掴み直そうとして手を此方へと伸ばす木山君に慌てて梶君が手を伸ばした。
けれど、「触ってはいけない」というその言葉を思い出したのだろうか。
彼はパッと手を引いて、木山君は頭から落下した。
床へと身体を打ちつけた木山君は、未だに状況が理解できていないのか驚いたように露わになった両目を見開いて天井を見ていた。
「梶、お前なんで手掴まなかったんだよ」
浅井君が呆気にとられている梶君を強い口調で責める。
梶君はボーッとしたまま「ごめん」と呟いたものの、その場から動こうとはしなかった。
成績の危ない生徒は次の考査で赤点を1つでもとったら留年だと脅され、必死に問題集に齧りついていたし、出席日数が足りない生徒は朝早すぎる時間帯から登校して来てはすべての授業に参加していた。
「風野ー」
昼休みに教室を出て行こうとしたところで鈴木君たちのグループに呼び止められた。
久しぶり過ぎて何事かと身構える私に鈴木君は「別に意地悪したりしねーから」とあきれ顔のまま言う。
「おまえ普段どうやって勉強してるの」
そう言われ、私は彼らが留年危機グループだったということを思い出す。
「授業中に黒板に書かれたことは全部ノートに書きこんで、口頭で説明されたことも書きこんで、家に帰ってから復習……」
ごく一般的な勉強法を口にすると、彼らは唖然とした後、「やっぱりできる奴は頭の構造が違うんだよ」とぼやき始めた。
「悪かったな」と心の中で舌打ちしながらも、私は彼らに愛想よく手を振って教室を出た。
背後から「やっぱ可愛いよな風野」という声が聞こえてきたのは聞こえないフリをした。
学年末試験は2月末に終わり、鈴木君のグループからは2人留年が決定した。
彼らが教室の隅で「やべぇ」と呟いているのをクラスメートたちは白い目で眺めていたけれど、私は少しだけ気の毒に思った。
――頭の構造が違ったんですね。
心の中でそう呟いて、私はそっと視線を逸らした。
私が特別親しい人たちは全員進級が確定し、打ち上げモードに入りつつある。
テスト返却が終わって帰り支度を始めていた時だった。
廊下から言い争うような声が聞こえて来た。
何だろうと思い顔を出すと、案の定Dクラスの野球部だった。
木山君の退部の話は今さら蒸し返されたらしく、浅井君たちが「戻ってこいよ」と説得している最中だった。
私は梶君を見つけ、廊下へと出る。
スクールバッグを肩に掛けた木山君は彼らを振り返ることなく「嫌だ」と言いながら階段へと歩いて行っていた。
その足取りは未だに不確かで、片眼になれていないことが分かる。
階段まで来たところで、木山君はゆっくりと私たちを振り返った。
「仲間だとか1度も思ったことねーし、そういうの迷惑だから。」
疲れたようにそう言った木山君は手探りで手すりへと手を伸ばそうとし、その手が宙を掠った。
誤って後ずさりをした木山君の身体が傾くと、近くにいた生徒たちが悲鳴を上げた。
手摺りを掴み直そうとして手を此方へと伸ばす木山君に慌てて梶君が手を伸ばした。
けれど、「触ってはいけない」というその言葉を思い出したのだろうか。
彼はパッと手を引いて、木山君は頭から落下した。
床へと身体を打ちつけた木山君は、未だに状況が理解できていないのか驚いたように露わになった両目を見開いて天井を見ていた。
「梶、お前なんで手掴まなかったんだよ」
浅井君が呆気にとられている梶君を強い口調で責める。
梶君はボーッとしたまま「ごめん」と呟いたものの、その場から動こうとはしなかった。