・*不器用な2人*・
「爪?」
井上君は怪訝そうに眉を潜める。
「俺は剥がれたことないから分からないけど……。伸ばし過ぎていると何かの拍子に折れたりはするらしいね。
あと、足とかだと回転式の椅子で爪を巻きこんではがしてしまったり……」
井上君と同じベンチに腰をおろしていた浅井君も首を傾げる。
「うっかりしていてそうなることはあっても、自分でやるようなことではないと思うし……。
他人にやられるにしたって2本も綺麗に剥がれるってことはないんじゃないの」
「どうして?」
「だってあれ、少し剥がれかけただけでも痛いんだよ。自分で最後まで剥がしきるなんて正気の沙汰じゃないし、他人にやられるにしたって途中で抵抗するよ」
浅井君はそう呟いてから井上君に同意を求める。
経験がないと先ほど言ったばかりの井上君は理解できなさそうに首を傾げたままだった。
終業式の日。
朝、通学路で梶君と一緒になった。
彼は何事もなかったかのように私に「おはよう」と笑い掛けてくれた。
「そう言えば、春休みに旅行へ行こうって話になってたんだけど……」
私が言うと、梶君が「浅井から電話で聞いた」と子供のように笑う。
「行き先って決まったの? 俺、春期講習とか入ってるけどいつでも行けるよ」
「お隣りの県に一泊二日だって。3月の終わり。新幹線とか混むし、早めに席とっておかないとだね」
そんなことを話しながら校門を抜ける。
木山君が私たちを追い越して校舎へと消えて行ったけれど、梶君は気付かなかったのか、木山君に声をかけなかった。
HRの際に点呼が行われるものの、終業式ではカウントをしない為、私たち屋上メンバーは終業式を抜け出して屋上へと集結した。
真面目に体育館へ向かおうとしていた淳君をめぐちゃんが強引に引っ張って屋上へ連れて来ていた。
木山君の姿は当然のようになかった。
「春休みが終わったら俺達2年生だな」
梶君がフェンスに靠れて笑いながら言う。
「1年があっという間だったんだから2年もあっという間に終わってあっという間に受験生になって……あっという間に大人になっていくんだろうね」
井上君も笑いながら浅井君に靠れかかる。
それを振り払わずに浅井君も井上君と肩を寄せ合いながら「そうだなー」と答えた。
「いつから大人になるんだろうね」
「気付いたらなってるものなんじゃないの?」
そんなことをめぐちゃんと淳君が言っている。
――なれるんだろうか、私たち。
心の中でそう呟いて、私は終業式が行われている体育館を見下ろした。
マイクの音は屋上にまで小さくだけれど届いて来ていた。
「じゃ、また適当に集まって騒ごうなー」
そんなことを言いながら私たちは校門の前で別れた。
井上君は怪訝そうに眉を潜める。
「俺は剥がれたことないから分からないけど……。伸ばし過ぎていると何かの拍子に折れたりはするらしいね。
あと、足とかだと回転式の椅子で爪を巻きこんではがしてしまったり……」
井上君と同じベンチに腰をおろしていた浅井君も首を傾げる。
「うっかりしていてそうなることはあっても、自分でやるようなことではないと思うし……。
他人にやられるにしたって2本も綺麗に剥がれるってことはないんじゃないの」
「どうして?」
「だってあれ、少し剥がれかけただけでも痛いんだよ。自分で最後まで剥がしきるなんて正気の沙汰じゃないし、他人にやられるにしたって途中で抵抗するよ」
浅井君はそう呟いてから井上君に同意を求める。
経験がないと先ほど言ったばかりの井上君は理解できなさそうに首を傾げたままだった。
終業式の日。
朝、通学路で梶君と一緒になった。
彼は何事もなかったかのように私に「おはよう」と笑い掛けてくれた。
「そう言えば、春休みに旅行へ行こうって話になってたんだけど……」
私が言うと、梶君が「浅井から電話で聞いた」と子供のように笑う。
「行き先って決まったの? 俺、春期講習とか入ってるけどいつでも行けるよ」
「お隣りの県に一泊二日だって。3月の終わり。新幹線とか混むし、早めに席とっておかないとだね」
そんなことを話しながら校門を抜ける。
木山君が私たちを追い越して校舎へと消えて行ったけれど、梶君は気付かなかったのか、木山君に声をかけなかった。
HRの際に点呼が行われるものの、終業式ではカウントをしない為、私たち屋上メンバーは終業式を抜け出して屋上へと集結した。
真面目に体育館へ向かおうとしていた淳君をめぐちゃんが強引に引っ張って屋上へ連れて来ていた。
木山君の姿は当然のようになかった。
「春休みが終わったら俺達2年生だな」
梶君がフェンスに靠れて笑いながら言う。
「1年があっという間だったんだから2年もあっという間に終わってあっという間に受験生になって……あっという間に大人になっていくんだろうね」
井上君も笑いながら浅井君に靠れかかる。
それを振り払わずに浅井君も井上君と肩を寄せ合いながら「そうだなー」と答えた。
「いつから大人になるんだろうね」
「気付いたらなってるものなんじゃないの?」
そんなことをめぐちゃんと淳君が言っている。
――なれるんだろうか、私たち。
心の中でそう呟いて、私は終業式が行われている体育館を見下ろした。
マイクの音は屋上にまで小さくだけれど届いて来ていた。
「じゃ、また適当に集まって騒ごうなー」
そんなことを言いながら私たちは校門の前で別れた。