・*不器用な2人*・
その日の夜はまったく眠れなかった。
隣りのベッドに男子であるめぐちゃんが寝ているのだと思うと、妙に不思議な気分になってしまって、彼のことを信頼しているはずなのに目を閉じることすらできなかった。
私が寝ていないのに気付いためぐちゃんが電気をつけ直して起き上がる。
「綾瀬ちゃん、トランプやろっか」
明るい声で言われ、私も身を起こす。
「僕も女の子と一緒だと思うと眠れなくって」
彼は子供っぽく笑うと、部屋の備品であるトランプを取り出して来た。
「明日の朝になれば、きっと綾瀬ちゃんは今日のことなんて忘れると思う。
寝れば夢だったように思えるよ、きっと」
めぐちゃんは私の動揺に気付いてくれているし、気遣ってくれている。
今日1日一緒にいて、ずっと不思議だったのだ。
いつも以上におっとりとしていためぐちゃんに、何処か違和感を覚えていた。
彼はもしかすると、今日私に自分の秘密を教えるつもりだったのかもしれない。
今朝からの彼の様子を思い出しながら少しだけ思った。
――親友なのだから、受け入れよう……と。
翌朝、寝不足の私たちはレストランのバイキングでテーブルに突っ伏していた。
「何、徹夜で語り合うようなことでもあったわけ?」
呆れたように淳君から言われためぐちゃんは「うるせーよ」と男子のままの声で言いつつも、化粧だけはしっかりとしていた。
「なんかトランプに白熱しちゃったよね」
私が沈んだ声で言うと、めぐちゃんも「そうだねー」と沈んだ声で返してくれる。
「トランプに盛り上がるような年頃なのか、風野たちは」
隣りでパンを口に運んでいた梶君が何とも言えない微妙な表情で私を見下ろしてきたのが少しだけいたたまれなかった。
けれど、テーブルの下でそっと繋がれた手に安心する。
めぐちゃんの、女の子のような白くて柔らかい優しい手。
どれだけ強がっていても、どれだけ棘で人を傷付けようとしても、彼は絶対に優しい人なのだと思った。
その手を握り返して、少しだけホッとした。
ホテルの会計を済ませ、外へと出る。
「昨日、梶君と淳君はなにして過ごしたの?」
並んで歩いていた彼らの声をかけると、淳君が気不味そうに視線を逸らし、代わりに梶君が笑いながら彼の肩を乱暴に掴む。
「なんかこいつが気分悪くなっちゃって介抱してた」
梶君にからかわれた淳君は恥ずかしそうに俯きつつも梶君の頬を軽く抓る。
痛がりながら必死にごめん!と繰り返している梶君に皆が声を立てて笑う。
「淳、大丈夫だった?」
こっそりとめぐちゃんが淳君に訊ねているのが横目に見えた。
淳君は顔を隠したまま小さく頷いて、サッサとめぐちゃんから離れて行く。
「浅井君と井上君は?」
私が訊ねると、彼らは顔を見合せてから「秘密」と答えた。
「絶対イチャついてただろ」
めぐちゃんにどすの利いた声で言われた彼らは「違う違う」と息を揃えて言い、更にめぐちゃんを不機嫌にさせていた。
電車に乗り込むと、私とめぐちゃんは隣り同士に座った。
「え、淳と隣りかよ」
私とめぐちゃんから淳君へと視線を移した梶君が少しだけ不満そうな声で言った。
窓際で既に寝る態勢に入っていた淳君はムッとしたように「うるせー」と呟く。
「絶対に吐くなよ」
梶君に言われた淳君はパッと目を開けて、再び梶君の頬を今度は両手で引っ張った。
「もう2度とお前の好意には甘えねー!!」
そう不機嫌に言うと、淳君は今度こそ不貞寝に入ってしまった。
両頬を擦りながら拗ねていた梶君は、私と目が合うとパッと笑顔になった。
軽く手を振られて振り返す。
「ねぇ、異性と付き合うってどんな感じ?」
めぐちゃんにこっそり聞かれて、私はドキッとする。
「別に、普通だよ」
そう裏返った声で答えると、めぐちゃんに笑われてしまった。
ホームで私たちは別れた。
「2年はみんな同じクラスだといいな」
浅井君が明るく言うと、淳君が「お前ら野球部は絶対振り分けあるだろ」とボソッと呟く。
「そう言う淳君だけ別クラスだったらシャレにならないね」
井上君に無表情で言われた淳君はまた一気に不機嫌になったものの、梶君に宥められていた。
「まぁ、クラスが離れてもまた仲良くしようぜ」
梶君が言うと、みんな大きく頷いて、そこで解散となった。
自宅へと向かう途中、めぐちゃんからメールが来た。
『新学期からは男の恰好で登校するよ』
顔文字付きでそう言われ、思わず声を出してしまった。
前を歩いていた梶君が振り返り、「どうかした?」と訊ねてくる。
「何でもない!」
そう大きな声で言って、私はケータイを閉じると梶君に駆け寄った。
彼の腕をがっしりと掴むと、一瞬だけ驚いたような顔をされたものの、すぐに笑顔を向けてもらえた。
隣りのベッドに男子であるめぐちゃんが寝ているのだと思うと、妙に不思議な気分になってしまって、彼のことを信頼しているはずなのに目を閉じることすらできなかった。
私が寝ていないのに気付いためぐちゃんが電気をつけ直して起き上がる。
「綾瀬ちゃん、トランプやろっか」
明るい声で言われ、私も身を起こす。
「僕も女の子と一緒だと思うと眠れなくって」
彼は子供っぽく笑うと、部屋の備品であるトランプを取り出して来た。
「明日の朝になれば、きっと綾瀬ちゃんは今日のことなんて忘れると思う。
寝れば夢だったように思えるよ、きっと」
めぐちゃんは私の動揺に気付いてくれているし、気遣ってくれている。
今日1日一緒にいて、ずっと不思議だったのだ。
いつも以上におっとりとしていためぐちゃんに、何処か違和感を覚えていた。
彼はもしかすると、今日私に自分の秘密を教えるつもりだったのかもしれない。
今朝からの彼の様子を思い出しながら少しだけ思った。
――親友なのだから、受け入れよう……と。
翌朝、寝不足の私たちはレストランのバイキングでテーブルに突っ伏していた。
「何、徹夜で語り合うようなことでもあったわけ?」
呆れたように淳君から言われためぐちゃんは「うるせーよ」と男子のままの声で言いつつも、化粧だけはしっかりとしていた。
「なんかトランプに白熱しちゃったよね」
私が沈んだ声で言うと、めぐちゃんも「そうだねー」と沈んだ声で返してくれる。
「トランプに盛り上がるような年頃なのか、風野たちは」
隣りでパンを口に運んでいた梶君が何とも言えない微妙な表情で私を見下ろしてきたのが少しだけいたたまれなかった。
けれど、テーブルの下でそっと繋がれた手に安心する。
めぐちゃんの、女の子のような白くて柔らかい優しい手。
どれだけ強がっていても、どれだけ棘で人を傷付けようとしても、彼は絶対に優しい人なのだと思った。
その手を握り返して、少しだけホッとした。
ホテルの会計を済ませ、外へと出る。
「昨日、梶君と淳君はなにして過ごしたの?」
並んで歩いていた彼らの声をかけると、淳君が気不味そうに視線を逸らし、代わりに梶君が笑いながら彼の肩を乱暴に掴む。
「なんかこいつが気分悪くなっちゃって介抱してた」
梶君にからかわれた淳君は恥ずかしそうに俯きつつも梶君の頬を軽く抓る。
痛がりながら必死にごめん!と繰り返している梶君に皆が声を立てて笑う。
「淳、大丈夫だった?」
こっそりとめぐちゃんが淳君に訊ねているのが横目に見えた。
淳君は顔を隠したまま小さく頷いて、サッサとめぐちゃんから離れて行く。
「浅井君と井上君は?」
私が訊ねると、彼らは顔を見合せてから「秘密」と答えた。
「絶対イチャついてただろ」
めぐちゃんにどすの利いた声で言われた彼らは「違う違う」と息を揃えて言い、更にめぐちゃんを不機嫌にさせていた。
電車に乗り込むと、私とめぐちゃんは隣り同士に座った。
「え、淳と隣りかよ」
私とめぐちゃんから淳君へと視線を移した梶君が少しだけ不満そうな声で言った。
窓際で既に寝る態勢に入っていた淳君はムッとしたように「うるせー」と呟く。
「絶対に吐くなよ」
梶君に言われた淳君はパッと目を開けて、再び梶君の頬を今度は両手で引っ張った。
「もう2度とお前の好意には甘えねー!!」
そう不機嫌に言うと、淳君は今度こそ不貞寝に入ってしまった。
両頬を擦りながら拗ねていた梶君は、私と目が合うとパッと笑顔になった。
軽く手を振られて振り返す。
「ねぇ、異性と付き合うってどんな感じ?」
めぐちゃんにこっそり聞かれて、私はドキッとする。
「別に、普通だよ」
そう裏返った声で答えると、めぐちゃんに笑われてしまった。
ホームで私たちは別れた。
「2年はみんな同じクラスだといいな」
浅井君が明るく言うと、淳君が「お前ら野球部は絶対振り分けあるだろ」とボソッと呟く。
「そう言う淳君だけ別クラスだったらシャレにならないね」
井上君に無表情で言われた淳君はまた一気に不機嫌になったものの、梶君に宥められていた。
「まぁ、クラスが離れてもまた仲良くしようぜ」
梶君が言うと、みんな大きく頷いて、そこで解散となった。
自宅へと向かう途中、めぐちゃんからメールが来た。
『新学期からは男の恰好で登校するよ』
顔文字付きでそう言われ、思わず声を出してしまった。
前を歩いていた梶君が振り返り、「どうかした?」と訊ねてくる。
「何でもない!」
そう大きな声で言って、私はケータイを閉じると梶君に駆け寄った。
彼の腕をがっしりと掴むと、一瞬だけ驚いたような顔をされたものの、すぐに笑顔を向けてもらえた。