・*不器用な2人*・
第7章/動き出す関係
翌日から、梶君たちのグループにめぐちゃんも加わった。
めぐちゃんが来たからといって男子たちが私をなおざりにするようなことは1度もなかったし、めぐちゃんも男子たちと仲良くなったからといって私を邪慳することはなかった。
浅井君の自由な発言に梶君が無表情でツッコミを入れたり、
浅井君と木山君が一緒になって梶君にちょっかいをかけたり…
たまには私とめぐちゃんも巻き添えを食らって、予鈴が鳴るまでふざけ続けることが多かった。
「浅井君って第一印象とまったくの別人だー」
教室へと帰る途中、めぐちゃんが乱れた髪を尚しながら笑って言った。
「がっかりした?」
私がそう聞くと、彼女は笑顔で首を振る。
「あんな浅井君の方がずっとカッコイイし可愛い。」
私と友達になってくれた日から、めぐちゃんの気持ちはまったく変わっていないらしい。
私は素直にめぐちゃんの恋を応援したいと思った。
野球部が始まったのは、4月の下旬ごろだった。
最初のうち1年生は体力作りをグラウンドの外でやるだけの活動しかできないけれど、それでも梶君たちは真面目に参加するようになった。
ただ、部活動が始まる直前に階段で転んで足を痛めた木山君だけは、顧問や先輩に了承を得て帰宅部と化していた。
めぐちゃんもめぐちゃんで女バスに入部し、私は木山君と2人で下校することが多くなった。
木山君は1人だけスッと背が高くて、いつも涼しげで、お兄さんのような人だった。
私のクラスにも彼のことが好きな女子は数人いるけれど、「とても告白できるような雰囲気じゃない」「オーラが違いすぎる」とよく言われている。
浅井君と一緒にじゃれ合っている時以外は、確かに大人っぽい風格があった。
「ところで風野さんさぁ……」
駅へと向かう道のりで、級に木山君が口を開いた。
私は慌てて振り返る。
「今、好きな奴とかいる?」
長い前髪を耳にかけ、木山君は私を正面から見た。
――告白…?
思わず身構える私に対して、木山君は少しも動じない。
どころか、私をほとんど見下ろすような状態だった。
私が後ずさりを始めると、ようやく彼は私の勘違いに気付いたらしい。
慌てて手を大きく振った。
「違う、告白じゃない。
ただ男子に!野球部の連中に聞いてこいって言われただけだから!」
そう言われ、私はホッとすると同時に少しだけ恥ずかしくなった。
「いないと…思う。」
断言できなかったのは、梶君が脳裏に浮かんだからだった。
「そっかそっか。」
木山君はヘラヘラと笑いながら照れたように頬を掻き、それからまたなにごともなかったように歩き始めた。
私は慌てて彼の後を追った。
誰が木山君にそんなことを聞いたのだろうかと後になって疑問に思ったけれど、今更聞き出すのもおかしいかと思い、私は深く考えないことにした。
私のことを好きになる男子なんているはずがない。
きっとちょっとした興味本位か何かなのだろう……と。
週末。
近所のコンビニへレモンティーを買いに出かけた際に梶君と会った。
彼は黒に金のラインが入ったスウェットにビーサンという、ラフかつ派手な服装だった。
邪魔な前髪をアメリカンヘアピンで留めていて、学校の彼とはひどいギャップがあった。
「あ、風野。」
スポーツドリンクをレジで受け取って、梶君はようやく私にきづいたらしい。
すぐ近付いてきた。
「買い物?」
私が手にさげたコンビニの袋を見ながら彼はたずねてくる。
「うん……。」
私が答えると、梶君は「そっかそっか」と木山君のように軽く言った。
小学生がたくさん遊んでいる公園へと行った。
空いていたブランコに腰をおろし、私たちは各々買ったジュースを開封する。
「懐かしいな。
俺ガキのころよくここで上級生と人知とりの喧嘩になってた。」
ドッジボールをする小学生たちを見ながら、梶君はちいさく笑った。
私は小学生の時、公園を利用したことがなかった。
いつも学校から家へと帰ると、親に言われる通りに勉強ばかりしていた。
当時から当然のように友達はいなかった。
だから、梶君の話を聞くのは新鮮なのと同時に、少しだけ悲しかった。
梶君が昔の話をやめたのは級だった。
彼は思い出したように私の顔を見た。
「そういえば、木山と一緒に帰ってるんだっけ。」
不意な質問に私は面食らいながら頷いた。
「あいつ、どう?」
どう答えていいのかも分からないような質問を梶君はしてきた。
「好き」か「嫌い」で答える質問なのかと迷いながら、私は「普通だよ」と答えた。
「木山、野球部のマネージャーからも結構人気あるんだよな……。
見た目がカッコイイし、大人っぽいし……。」
梶君が目を細めながら言う。
――梶君だってじゅうぶんモテるでしょ。
心の中で呟きながらも、私は「フ――ン」と相づちを打った。
野球部男子の人気は、驚くほどのものだった。
梶君と木山君がその筆頭だったけれど、やっぱり浅井君もなかなかの人気らしい。
私も、めぐちゃんが浅井君のことを好きだと言うたびに、彼が素敵な男子のように錯覚さえしてしまうくらいだ。
「そう言えばこの前、木山君から聞かれたんだけど……」
私はふと思い出して、先日のことを梶君にたずねてみた。
「そんな話題があったの?」
私が言うと、梶君は大きく眉をしかめて、髪を乱暴に掻いた。
「あったな、そういえばそんな話……。」
梶君はそう呟いてしばらく考え込んでから、ブランコから下りた。
「そのこと、あまり気にしないほうがいいんじゃないかな。
気になるかもしれないけど、今まで通りにふるまった方がいいよ。」
梶君の言葉はもっともだと思った。
変に気にして今までの関係を崩すのは私もイヤだった。
野球部の誰が私のことを気にしたのかは分からないけれど、少なくともそれが木山君や梶君ではないということが分かった。
「それに、そいつが本気だったら、近いうちに直接言ってくるんじゃないの。」
梶君はそう言うと、空になったボトルを遠く離れたゴミ箱へと投げ入れた。
「じゃ、また月曜日に学校で。」
一言言って去って行ってしまう梶君の背中を見ながら、私は小さく溜息をついた。
めぐちゃんが来たからといって男子たちが私をなおざりにするようなことは1度もなかったし、めぐちゃんも男子たちと仲良くなったからといって私を邪慳することはなかった。
浅井君の自由な発言に梶君が無表情でツッコミを入れたり、
浅井君と木山君が一緒になって梶君にちょっかいをかけたり…
たまには私とめぐちゃんも巻き添えを食らって、予鈴が鳴るまでふざけ続けることが多かった。
「浅井君って第一印象とまったくの別人だー」
教室へと帰る途中、めぐちゃんが乱れた髪を尚しながら笑って言った。
「がっかりした?」
私がそう聞くと、彼女は笑顔で首を振る。
「あんな浅井君の方がずっとカッコイイし可愛い。」
私と友達になってくれた日から、めぐちゃんの気持ちはまったく変わっていないらしい。
私は素直にめぐちゃんの恋を応援したいと思った。
野球部が始まったのは、4月の下旬ごろだった。
最初のうち1年生は体力作りをグラウンドの外でやるだけの活動しかできないけれど、それでも梶君たちは真面目に参加するようになった。
ただ、部活動が始まる直前に階段で転んで足を痛めた木山君だけは、顧問や先輩に了承を得て帰宅部と化していた。
めぐちゃんもめぐちゃんで女バスに入部し、私は木山君と2人で下校することが多くなった。
木山君は1人だけスッと背が高くて、いつも涼しげで、お兄さんのような人だった。
私のクラスにも彼のことが好きな女子は数人いるけれど、「とても告白できるような雰囲気じゃない」「オーラが違いすぎる」とよく言われている。
浅井君と一緒にじゃれ合っている時以外は、確かに大人っぽい風格があった。
「ところで風野さんさぁ……」
駅へと向かう道のりで、級に木山君が口を開いた。
私は慌てて振り返る。
「今、好きな奴とかいる?」
長い前髪を耳にかけ、木山君は私を正面から見た。
――告白…?
思わず身構える私に対して、木山君は少しも動じない。
どころか、私をほとんど見下ろすような状態だった。
私が後ずさりを始めると、ようやく彼は私の勘違いに気付いたらしい。
慌てて手を大きく振った。
「違う、告白じゃない。
ただ男子に!野球部の連中に聞いてこいって言われただけだから!」
そう言われ、私はホッとすると同時に少しだけ恥ずかしくなった。
「いないと…思う。」
断言できなかったのは、梶君が脳裏に浮かんだからだった。
「そっかそっか。」
木山君はヘラヘラと笑いながら照れたように頬を掻き、それからまたなにごともなかったように歩き始めた。
私は慌てて彼の後を追った。
誰が木山君にそんなことを聞いたのだろうかと後になって疑問に思ったけれど、今更聞き出すのもおかしいかと思い、私は深く考えないことにした。
私のことを好きになる男子なんているはずがない。
きっとちょっとした興味本位か何かなのだろう……と。
週末。
近所のコンビニへレモンティーを買いに出かけた際に梶君と会った。
彼は黒に金のラインが入ったスウェットにビーサンという、ラフかつ派手な服装だった。
邪魔な前髪をアメリカンヘアピンで留めていて、学校の彼とはひどいギャップがあった。
「あ、風野。」
スポーツドリンクをレジで受け取って、梶君はようやく私にきづいたらしい。
すぐ近付いてきた。
「買い物?」
私が手にさげたコンビニの袋を見ながら彼はたずねてくる。
「うん……。」
私が答えると、梶君は「そっかそっか」と木山君のように軽く言った。
小学生がたくさん遊んでいる公園へと行った。
空いていたブランコに腰をおろし、私たちは各々買ったジュースを開封する。
「懐かしいな。
俺ガキのころよくここで上級生と人知とりの喧嘩になってた。」
ドッジボールをする小学生たちを見ながら、梶君はちいさく笑った。
私は小学生の時、公園を利用したことがなかった。
いつも学校から家へと帰ると、親に言われる通りに勉強ばかりしていた。
当時から当然のように友達はいなかった。
だから、梶君の話を聞くのは新鮮なのと同時に、少しだけ悲しかった。
梶君が昔の話をやめたのは級だった。
彼は思い出したように私の顔を見た。
「そういえば、木山と一緒に帰ってるんだっけ。」
不意な質問に私は面食らいながら頷いた。
「あいつ、どう?」
どう答えていいのかも分からないような質問を梶君はしてきた。
「好き」か「嫌い」で答える質問なのかと迷いながら、私は「普通だよ」と答えた。
「木山、野球部のマネージャーからも結構人気あるんだよな……。
見た目がカッコイイし、大人っぽいし……。」
梶君が目を細めながら言う。
――梶君だってじゅうぶんモテるでしょ。
心の中で呟きながらも、私は「フ――ン」と相づちを打った。
野球部男子の人気は、驚くほどのものだった。
梶君と木山君がその筆頭だったけれど、やっぱり浅井君もなかなかの人気らしい。
私も、めぐちゃんが浅井君のことを好きだと言うたびに、彼が素敵な男子のように錯覚さえしてしまうくらいだ。
「そう言えばこの前、木山君から聞かれたんだけど……」
私はふと思い出して、先日のことを梶君にたずねてみた。
「そんな話題があったの?」
私が言うと、梶君は大きく眉をしかめて、髪を乱暴に掻いた。
「あったな、そういえばそんな話……。」
梶君はそう呟いてしばらく考え込んでから、ブランコから下りた。
「そのこと、あまり気にしないほうがいいんじゃないかな。
気になるかもしれないけど、今まで通りにふるまった方がいいよ。」
梶君の言葉はもっともだと思った。
変に気にして今までの関係を崩すのは私もイヤだった。
野球部の誰が私のことを気にしたのかは分からないけれど、少なくともそれが木山君や梶君ではないということが分かった。
「それに、そいつが本気だったら、近いうちに直接言ってくるんじゃないの。」
梶君はそう言うと、空になったボトルを遠く離れたゴミ箱へと投げ入れた。
「じゃ、また月曜日に学校で。」
一言言って去って行ってしまう梶君の背中を見ながら、私は小さく溜息をついた。