・*不器用な2人*・
私が何か中西君に言おうと席を立つのと、中西君の友人がふざけたように肉や野菜を刺した竹串を木山君の口に入れるのは同時だった。
近くに座っていた女子たちが悲鳴をあげ、クラスの男子たちが慌てたように立ち上がる。
「ほら、1人で食べれないなら食べさせてやるからよ」
中西君とその友人が笑いながら言うのに対し、木山君の表情が完全に凍りついていた。
隣りに座った淳君もギョッとしたように自分の兄の顔を覗き込みながら狼狽を始める。
――これって、不味いんじゃないの。
そう思った私の代わりに梶君が駆け寄って行って、中西君たちを木山君から引き剥がした。
「やっていいことと悪いことがあるだろ!
分別付かない小学生かお前ら!」
梶君は彼らに怒鳴り付けると、ホッとしたように浅井君や井上君やめぐちゃんが木山君へと近寄って行く。
大丈夫だった?と誰かが声をかけようとした時だった。
怒ったようにヒステリックにテーブルを叩くと、木山君はバーベキュー区域から出て行ってしまった。
一部始終を見ていた鈴木君が苛立ったように舌打ちをして、床に転がっている中西君を掴み上げたところで、ようやく担任が駆け付けた。
「ちょっと、喧嘩は止めなさい!」
状況を勘違いした担任は鈴木君の首根っこを掴んで中西君から引き剥がすと、「大丈夫?中西君…」と彼を心配し始めてしまった。
――あ、駄目だこいつ。
担任に対して呆れたのは私だけではないらしい。
「行こう、風野」
梶君や浅井君に声を掛けられて、私は慌てて区域から離れた。
木山君は、先ほどいた木陰に座っていた。
「木山、大丈夫か?」
そう言いながら木山君の前に腰をおろした梶君が、ギョッとしたような表情を浮かべ、遠慮がちに木山君へと手を伸ばす。
木山君はその手を軽く叩いた。
めぐちゃんが信じられないというように息をのんで、私の肩をそっと掴んだ。
――これから先もずっと見ることなんてないと思っていた。
あの木山君が泣いているところなんて。
「木山、どうした」
浅井君が慌てたように立ち上がり、木山君の横へやって来る。
木山君は両手で口を押さえながら「気持ち悪い」と小声で言った。
「背中、擦っても大丈夫?」
梶君が訊ねると、木山君は小さく頷く。
「井上、ビニール!ビニール持ってきて!あと水!」
浅井君が怒鳴ると、突っ立っていた井上君が慌てたようにバーベキュー区域へと引き返していった。
井上君が木山君にそっと水の入ったペットボトルを手渡す。
「口、漱いだ方が良いよ」
そうポツリと言うと、井上君はサッと木山君から遠ざかってしまった。どう接していいのか分からないのか、浅井君の影に隠れて様子を窺っている。
「中西の奴、後で絞めとくか」
指をボキボキと鳴らす浅井君に、「やめておけ」と梶君があっさりと言った。
「お前がやらなくても誰かがやるよ」
梶君はそう言いながら木山君の背中から手を離した。
「だってムカつくじゃん。木山のことよく知りもしないくせになんか一方的にキレてしかもあんなさぁ……」
頭に血が上ったのかやけに早口な浅井君に、めぐちゃんが呆れたように言う。
「確かに中西が悪いけど木山君だって相当口悪かったし……」
めぐちゃんが思い出したようにポケットからアメリカンヘアピンの入ったシルバーの缶を取り出す。
「木山君、此処にいる時だけでも髪留めときなよ。
汗掻いたでしょ」
ポケットボトルのキャップを閉めかけていた木山君は急に投げてよこされた缶を慌てたように片手で受け取った。
近くに座っていた女子たちが悲鳴をあげ、クラスの男子たちが慌てたように立ち上がる。
「ほら、1人で食べれないなら食べさせてやるからよ」
中西君とその友人が笑いながら言うのに対し、木山君の表情が完全に凍りついていた。
隣りに座った淳君もギョッとしたように自分の兄の顔を覗き込みながら狼狽を始める。
――これって、不味いんじゃないの。
そう思った私の代わりに梶君が駆け寄って行って、中西君たちを木山君から引き剥がした。
「やっていいことと悪いことがあるだろ!
分別付かない小学生かお前ら!」
梶君は彼らに怒鳴り付けると、ホッとしたように浅井君や井上君やめぐちゃんが木山君へと近寄って行く。
大丈夫だった?と誰かが声をかけようとした時だった。
怒ったようにヒステリックにテーブルを叩くと、木山君はバーベキュー区域から出て行ってしまった。
一部始終を見ていた鈴木君が苛立ったように舌打ちをして、床に転がっている中西君を掴み上げたところで、ようやく担任が駆け付けた。
「ちょっと、喧嘩は止めなさい!」
状況を勘違いした担任は鈴木君の首根っこを掴んで中西君から引き剥がすと、「大丈夫?中西君…」と彼を心配し始めてしまった。
――あ、駄目だこいつ。
担任に対して呆れたのは私だけではないらしい。
「行こう、風野」
梶君や浅井君に声を掛けられて、私は慌てて区域から離れた。
木山君は、先ほどいた木陰に座っていた。
「木山、大丈夫か?」
そう言いながら木山君の前に腰をおろした梶君が、ギョッとしたような表情を浮かべ、遠慮がちに木山君へと手を伸ばす。
木山君はその手を軽く叩いた。
めぐちゃんが信じられないというように息をのんで、私の肩をそっと掴んだ。
――これから先もずっと見ることなんてないと思っていた。
あの木山君が泣いているところなんて。
「木山、どうした」
浅井君が慌てたように立ち上がり、木山君の横へやって来る。
木山君は両手で口を押さえながら「気持ち悪い」と小声で言った。
「背中、擦っても大丈夫?」
梶君が訊ねると、木山君は小さく頷く。
「井上、ビニール!ビニール持ってきて!あと水!」
浅井君が怒鳴ると、突っ立っていた井上君が慌てたようにバーベキュー区域へと引き返していった。
井上君が木山君にそっと水の入ったペットボトルを手渡す。
「口、漱いだ方が良いよ」
そうポツリと言うと、井上君はサッと木山君から遠ざかってしまった。どう接していいのか分からないのか、浅井君の影に隠れて様子を窺っている。
「中西の奴、後で絞めとくか」
指をボキボキと鳴らす浅井君に、「やめておけ」と梶君があっさりと言った。
「お前がやらなくても誰かがやるよ」
梶君はそう言いながら木山君の背中から手を離した。
「だってムカつくじゃん。木山のことよく知りもしないくせになんか一方的にキレてしかもあんなさぁ……」
頭に血が上ったのかやけに早口な浅井君に、めぐちゃんが呆れたように言う。
「確かに中西が悪いけど木山君だって相当口悪かったし……」
めぐちゃんが思い出したようにポケットからアメリカンヘアピンの入ったシルバーの缶を取り出す。
「木山君、此処にいる時だけでも髪留めときなよ。
汗掻いたでしょ」
ポケットボトルのキャップを閉めかけていた木山君は急に投げてよこされた缶を慌てたように片手で受け取った。