・*不器用な2人*・
第59章/家族
仮入部の時期が終わると野球部にも1年生が入って来た。
3年生の引退もあり、後輩育ては2年生の仕事となったらしい。
しっかり者の梶君や浅井君はたくさんの後輩に慕われて、放課後グラウンドを走り回っていた。
マネージャーだっためぐちゃんは部員へと昇格し、最近は部活にばかり打ち込んでいる。
「なんか少年漫画みたいに熱い試合を繰り広げるのかと思ったら、全然だね。
放課後に体育の授業受けてるって感じがするんですけど」
昼休み、お弁当を食べながらめぐちゃんが膨れっ面で言う。
「お前の言う少年漫画の要素って何なんだよ」
めぐちゃんの代わりに手伝いに入ったばかりの淳君が呆れたように言う。
「土手で練習したり、全国目指して猛練習したり、試合に負けたら悔し泣きしたりさぁ」
いつの時代の少年漫画の話をしているのだろう……。
パンを齧りながら私は頭の上にはてなを浮かべる。
「お前は俺らが試合に負けて泣いてるの見て嬉しいのか。
っていうかそこまで野球に打ち込んでねーよ。
人生掛けて試合してるわけでもなければ甲子園なんて目指してねーよ」
梶君が笑いながらめぐちゃんの肩をばしばしと叩く。
――そこまでいい加減なのもどうかと思うけれど……。
「大体、甲子園目指したいとか言う野球に人生かける奴は強豪校行くものだろ。
俺らは勉強できない・運動そこそこってレベルの高校なんだから、楽しみでスポーツやれれば充分」
そう言って梶君は、近くにある空席へ目を移した。
「木山、朝見かけたんだけど教室来てないよな」
最近ずっと人が座っていない机は、中にプリントが強引に押し込められて今にも氾濫しかけている。
最初のうちは梶君や淳君が整頓をしていたものの、キリがなかったようで最近は手入れをしていないのだそうだ。
「頭は良いから出席日数のカウントさえ間違えなければ進学できるからねー」
めぐちゃんが湿った目で彼の机を眺める。
教室に来ていなくても学校には来ているらしい。
だから、彼を校内で見かける機会はあるそうだ。
たまたま私が会えていないだけで、野球部の人たちはそれなりに挨拶を交わしていた。
「でも、授業に出るのが面倒だって言うのなら何で学校にはわざわざと来るんだろう」
めぐちゃんが思いついたように言うと、淳君が飲んでいたお茶を机の上に置いた。
「例え学校でロクな扱いされなくても、家にいるよりはマシってことだと思うよ」
木山龍一という、あの日まで聞いたこともなかった名前が急に脳裏を掠めた。
3年生の引退もあり、後輩育ては2年生の仕事となったらしい。
しっかり者の梶君や浅井君はたくさんの後輩に慕われて、放課後グラウンドを走り回っていた。
マネージャーだっためぐちゃんは部員へと昇格し、最近は部活にばかり打ち込んでいる。
「なんか少年漫画みたいに熱い試合を繰り広げるのかと思ったら、全然だね。
放課後に体育の授業受けてるって感じがするんですけど」
昼休み、お弁当を食べながらめぐちゃんが膨れっ面で言う。
「お前の言う少年漫画の要素って何なんだよ」
めぐちゃんの代わりに手伝いに入ったばかりの淳君が呆れたように言う。
「土手で練習したり、全国目指して猛練習したり、試合に負けたら悔し泣きしたりさぁ」
いつの時代の少年漫画の話をしているのだろう……。
パンを齧りながら私は頭の上にはてなを浮かべる。
「お前は俺らが試合に負けて泣いてるの見て嬉しいのか。
っていうかそこまで野球に打ち込んでねーよ。
人生掛けて試合してるわけでもなければ甲子園なんて目指してねーよ」
梶君が笑いながらめぐちゃんの肩をばしばしと叩く。
――そこまでいい加減なのもどうかと思うけれど……。
「大体、甲子園目指したいとか言う野球に人生かける奴は強豪校行くものだろ。
俺らは勉強できない・運動そこそこってレベルの高校なんだから、楽しみでスポーツやれれば充分」
そう言って梶君は、近くにある空席へ目を移した。
「木山、朝見かけたんだけど教室来てないよな」
最近ずっと人が座っていない机は、中にプリントが強引に押し込められて今にも氾濫しかけている。
最初のうちは梶君や淳君が整頓をしていたものの、キリがなかったようで最近は手入れをしていないのだそうだ。
「頭は良いから出席日数のカウントさえ間違えなければ進学できるからねー」
めぐちゃんが湿った目で彼の机を眺める。
教室に来ていなくても学校には来ているらしい。
だから、彼を校内で見かける機会はあるそうだ。
たまたま私が会えていないだけで、野球部の人たちはそれなりに挨拶を交わしていた。
「でも、授業に出るのが面倒だって言うのなら何で学校にはわざわざと来るんだろう」
めぐちゃんが思いついたように言うと、淳君が飲んでいたお茶を机の上に置いた。
「例え学校でロクな扱いされなくても、家にいるよりはマシってことだと思うよ」
木山龍一という、あの日まで聞いたこともなかった名前が急に脳裏を掠めた。