・*不器用な2人*・
「龍一は裕福な家庭に甘やかされて育った非常識な子供で、高校生とつるんで町内でも有名な不良だったらしい。
ご両親はそんな息子を心配しながらも一過性のものだと思って口出しはしなかった。
龍一は受験生になってからも結局は非行を繰り返し、挙げ句夜中に親の知らないところで死亡。
ご両親はその時になって自分たちの育て方を後悔したらしいよ」
49日後に生まれた薫の方をご両親は育てることに決め、面影のなかった淳は親戚の元へと養子に出された。
もう2度と道を踏み外して自分たちの知らないところで死んでしまわないようにと、ご両親は厳しいしつけを行ったという。
元々物覚えも悪く身体も弱く、勉強も運動もできなかった木山君は、「もしもできなかったら」という恐怖だけからどちらにも打ち込み、小中でも優等生として周りから注目を集めたという。
中学の半ばで反抗期に入りかけたものの、結局は両親の圧力を跳ね返すこともできず、その頃から感情の起伏も極端に少なくなっていったらしい。
ご両親からの指導が更に厳しくなったのは、中学3年、龍一が死んだ歳に木山君がなった頃からだったという。
「でも、自分の親だろ?俺も義父さんに殴られたりすることあるけどそんなに怖くはないけどなぁ……」
浅井君が理解できないというように首を傾げる。
「男なら親に殴られた経験くらいあるんじゃない?」
井上君が梶君に同意を求めると梶君も割とあっさりうなずき、めぐちゃんですらも「僕もある」と同意した。
私だって親の意にかなわないことをした時は平手がよく飛んだ。
それによって親の言うことを聞かなければいけないという絶対性を知り、今のような性格になったのだ。
「自分たちの思う通りの子供に育てる為に親は1度は子供を殴る。
でも、違うんだよ薫は。
どれだけ良い子にしていても、薫は龍一で、いつか死ぬ不良でしかないから」
淳君が「この意味分かる?」と私に訊ねて来た。
「木山君が何をしても、ご両親は彼のことを不良だと思い続けて指導を繰り返すってこと?」
淳君が頷くと、梶君たちが私と淳君を何度も見比べた。
「15という年齢を超えたら、薫と龍一は同一人物になるってこと。
龍一は15歳から先の人生がなかった。だから薫は14歳までは自分なりの人生を歩めたけれど、15歳からは何をしても龍一としての行いでしかないってこと」
自分がいなくても淳君を代わりにすればいいと、以前木山君が言っていたことを思い出す。
それは、彼自身が誰かの代用品だったからなんだと今になって気付いた。
「殴られ蹴られは俺だってあるよ。悪さをするたびに養父さんにやられた。
でも、何も悪いことをしていないのに自分じゃない誰かのやったことを責められて、訳も分からないまま縛り付けられて殴られて、視界が曇るまで顔面を殴られて……。
そんな経験したことある奴、いる?」
淳君の言葉に梶君たちは一斉に黙ってしまった。
どうして手を伸ばされるとその手を振り払うのか、どうして囲まれるとパニックに陥ってしまうのか。
それは暴力を振るわれるということへの恐怖を、彼が今までの人生の間に抱いていたからなんだ。
手を伸ばされることは顔を傷付けられることは、身体を掴まれることは蹴りあげられること、囲まれることは追い詰められたということを連想できる。
普通ならちょっと怖いな…で済まされることでも、幼い頃から何度も経験していたことなら、一定の条件がそろった段階で並以上の恐怖を抱いてしまうのもムリはないんだ。
「それって、周りの人は何も言わないのか?
木山だって家出とかして誰かに助けを求めれば済む話なんじゃ…」
浅井君が言うと、淳君が首を横に振った。
「それで失敗したらどんな目に遭うか、そう考えたら我慢していた方が良いと思ってるんだよきっと」
ご両親はそんな息子を心配しながらも一過性のものだと思って口出しはしなかった。
龍一は受験生になってからも結局は非行を繰り返し、挙げ句夜中に親の知らないところで死亡。
ご両親はその時になって自分たちの育て方を後悔したらしいよ」
49日後に生まれた薫の方をご両親は育てることに決め、面影のなかった淳は親戚の元へと養子に出された。
もう2度と道を踏み外して自分たちの知らないところで死んでしまわないようにと、ご両親は厳しいしつけを行ったという。
元々物覚えも悪く身体も弱く、勉強も運動もできなかった木山君は、「もしもできなかったら」という恐怖だけからどちらにも打ち込み、小中でも優等生として周りから注目を集めたという。
中学の半ばで反抗期に入りかけたものの、結局は両親の圧力を跳ね返すこともできず、その頃から感情の起伏も極端に少なくなっていったらしい。
ご両親からの指導が更に厳しくなったのは、中学3年、龍一が死んだ歳に木山君がなった頃からだったという。
「でも、自分の親だろ?俺も義父さんに殴られたりすることあるけどそんなに怖くはないけどなぁ……」
浅井君が理解できないというように首を傾げる。
「男なら親に殴られた経験くらいあるんじゃない?」
井上君が梶君に同意を求めると梶君も割とあっさりうなずき、めぐちゃんですらも「僕もある」と同意した。
私だって親の意にかなわないことをした時は平手がよく飛んだ。
それによって親の言うことを聞かなければいけないという絶対性を知り、今のような性格になったのだ。
「自分たちの思う通りの子供に育てる為に親は1度は子供を殴る。
でも、違うんだよ薫は。
どれだけ良い子にしていても、薫は龍一で、いつか死ぬ不良でしかないから」
淳君が「この意味分かる?」と私に訊ねて来た。
「木山君が何をしても、ご両親は彼のことを不良だと思い続けて指導を繰り返すってこと?」
淳君が頷くと、梶君たちが私と淳君を何度も見比べた。
「15という年齢を超えたら、薫と龍一は同一人物になるってこと。
龍一は15歳から先の人生がなかった。だから薫は14歳までは自分なりの人生を歩めたけれど、15歳からは何をしても龍一としての行いでしかないってこと」
自分がいなくても淳君を代わりにすればいいと、以前木山君が言っていたことを思い出す。
それは、彼自身が誰かの代用品だったからなんだと今になって気付いた。
「殴られ蹴られは俺だってあるよ。悪さをするたびに養父さんにやられた。
でも、何も悪いことをしていないのに自分じゃない誰かのやったことを責められて、訳も分からないまま縛り付けられて殴られて、視界が曇るまで顔面を殴られて……。
そんな経験したことある奴、いる?」
淳君の言葉に梶君たちは一斉に黙ってしまった。
どうして手を伸ばされるとその手を振り払うのか、どうして囲まれるとパニックに陥ってしまうのか。
それは暴力を振るわれるということへの恐怖を、彼が今までの人生の間に抱いていたからなんだ。
手を伸ばされることは顔を傷付けられることは、身体を掴まれることは蹴りあげられること、囲まれることは追い詰められたということを連想できる。
普通ならちょっと怖いな…で済まされることでも、幼い頃から何度も経験していたことなら、一定の条件がそろった段階で並以上の恐怖を抱いてしまうのもムリはないんだ。
「それって、周りの人は何も言わないのか?
木山だって家出とかして誰かに助けを求めれば済む話なんじゃ…」
浅井君が言うと、淳君が首を横に振った。
「それで失敗したらどんな目に遭うか、そう考えたら我慢していた方が良いと思ってるんだよきっと」