・*不器用な2人*・
第65章/鈴木君一味
野球部の練習を少しだけ残って見ることにした。
芝生の上に座って、後輩たちの先頭を立ってランニングをしている梶君を目で追っていると、不意に肩を叩かれた。
慌てて振り返ると、鈴木君一味がずらっと立っていた。
相変わらずの体格の好さに軽く引きながらとりあえず挨拶をすると、何故だか私の周りを取り囲むようにして座られてしまった。
「木山の兄ちゃん、休んでるらしいじゃん」
鈴木君の言葉に私はとりあえず頷く。
よくよく見てみると留年してまた1年をやっている人たちも一緒にいた。
「みんな、どういう家庭で育ったの」
私が訊ねると、鈴木君は辺りを見渡して「どんな感じだった?」と訊ねる。
「俺のとこは片親だから普通に静かだった」
「俺んとこも。俺は夜遅くまで外で遊んでたし母親は仕事だったしで家族で過ごす時間とか全然なかった」
「右に同じー」
意外に片親が多いのか私では想像もつかないようなエピソードを散々聞かされた挙句、鈴木君が「俺のとこは厳しかったぞ」と何故か誇らしげに語りだした。
「悪さするたびに天井から逆さ吊りをされたからな。
そのお陰で俺は余計にこうなった」
嬉しそうに自慢されてしまい、「逆さ吊りって何だろう…」と思いながらも私は反応ができなかった。
「まぁよく分かんないけど。
何かあったら力になるよ、主に戦闘の方で」
ぶっきらぼうにそう言われ、私は乾いた笑いしか出て来なかったもののお礼を言う。
それでも、そんなことをわざわざ言いに来てくれたのかと少しだけ感動してしまった。
私が振ってしまってからもそれなりに話しかけてくれたし、クラスが離れてからもたまに話しかけてくれるし、さかのぼれば文化祭の時は私の窮地を助けようとしてくれていたし……。
人としては最低な人たちだけど、私に対しては割といい人なのだろうか……と思った時だった。
「と言う訳で、今日俺ら合コンなんだけど風野さんこれからご一緒にどうっすか」
忘れかけていた話を蒸し返された。
帰り道。
木山君に久し振りに電話をかけてみた。
5回のコールの後に電話は留守電になってしまったものの、とりあえずはメッセージを残しておくことにした。
「綾瀬です。クラスのみんなも心配しています。
もしも具合が悪いのなら、早くよくなって下さい。
待ってます」
それだけ言うと、私は通話を終了した。
家への足取りは何となく重かったけれど、家へと入ると母親の「おかえりなさい」と言う声と、夕飯の匂いが迎え入れてくれた。
夕飯を食べながら父親が「最近あの男子はどんな感じだ」と聞いてきた。
「木山君なら、もう5日連続で病欠だよ」
私の言葉に両親が揃って顔を上げる。
「病気ってどうしたのあの子。
もしかしてこの前のそんなに酷い風邪だった?」
「それか目の手術でも受けに行ったのか?」
両親に身をのりだされて聞かれ、私は「分からない」としか答えられなかった。
「でも、また学校に来たら今まで通り迎え入れてあげなさいよ」
母親の言葉に私は「分かってる」と頷いた。
「あとネクタイは締めるように伝えておけ」
父親の言葉にはもう返事すらしなかった。
食事を終えて自室へ戻ると、ケータイがメールを受信していた。
木山君からたった一言「ありがとう」という返事。
昨年私が不登校になった時、家まで来てくれたのは木山君1人だったことを思い出す。
あの時私はちゃんとお礼が言えただろうか……。
そんなことを今になってふと思った。
明日は学校へ来てくれるのだろうかと思いながら、私はベッドに横になった。
芝生の上に座って、後輩たちの先頭を立ってランニングをしている梶君を目で追っていると、不意に肩を叩かれた。
慌てて振り返ると、鈴木君一味がずらっと立っていた。
相変わらずの体格の好さに軽く引きながらとりあえず挨拶をすると、何故だか私の周りを取り囲むようにして座られてしまった。
「木山の兄ちゃん、休んでるらしいじゃん」
鈴木君の言葉に私はとりあえず頷く。
よくよく見てみると留年してまた1年をやっている人たちも一緒にいた。
「みんな、どういう家庭で育ったの」
私が訊ねると、鈴木君は辺りを見渡して「どんな感じだった?」と訊ねる。
「俺のとこは片親だから普通に静かだった」
「俺んとこも。俺は夜遅くまで外で遊んでたし母親は仕事だったしで家族で過ごす時間とか全然なかった」
「右に同じー」
意外に片親が多いのか私では想像もつかないようなエピソードを散々聞かされた挙句、鈴木君が「俺のとこは厳しかったぞ」と何故か誇らしげに語りだした。
「悪さするたびに天井から逆さ吊りをされたからな。
そのお陰で俺は余計にこうなった」
嬉しそうに自慢されてしまい、「逆さ吊りって何だろう…」と思いながらも私は反応ができなかった。
「まぁよく分かんないけど。
何かあったら力になるよ、主に戦闘の方で」
ぶっきらぼうにそう言われ、私は乾いた笑いしか出て来なかったもののお礼を言う。
それでも、そんなことをわざわざ言いに来てくれたのかと少しだけ感動してしまった。
私が振ってしまってからもそれなりに話しかけてくれたし、クラスが離れてからもたまに話しかけてくれるし、さかのぼれば文化祭の時は私の窮地を助けようとしてくれていたし……。
人としては最低な人たちだけど、私に対しては割といい人なのだろうか……と思った時だった。
「と言う訳で、今日俺ら合コンなんだけど風野さんこれからご一緒にどうっすか」
忘れかけていた話を蒸し返された。
帰り道。
木山君に久し振りに電話をかけてみた。
5回のコールの後に電話は留守電になってしまったものの、とりあえずはメッセージを残しておくことにした。
「綾瀬です。クラスのみんなも心配しています。
もしも具合が悪いのなら、早くよくなって下さい。
待ってます」
それだけ言うと、私は通話を終了した。
家への足取りは何となく重かったけれど、家へと入ると母親の「おかえりなさい」と言う声と、夕飯の匂いが迎え入れてくれた。
夕飯を食べながら父親が「最近あの男子はどんな感じだ」と聞いてきた。
「木山君なら、もう5日連続で病欠だよ」
私の言葉に両親が揃って顔を上げる。
「病気ってどうしたのあの子。
もしかしてこの前のそんなに酷い風邪だった?」
「それか目の手術でも受けに行ったのか?」
両親に身をのりだされて聞かれ、私は「分からない」としか答えられなかった。
「でも、また学校に来たら今まで通り迎え入れてあげなさいよ」
母親の言葉に私は「分かってる」と頷いた。
「あとネクタイは締めるように伝えておけ」
父親の言葉にはもう返事すらしなかった。
食事を終えて自室へ戻ると、ケータイがメールを受信していた。
木山君からたった一言「ありがとう」という返事。
昨年私が不登校になった時、家まで来てくれたのは木山君1人だったことを思い出す。
あの時私はちゃんとお礼が言えただろうか……。
そんなことを今になってふと思った。
明日は学校へ来てくれるのだろうかと思いながら、私はベッドに横になった。