・*不器用な2人*・
第66章/梶の夢
早朝の町はまだ薄暗くて、太陽が昇ってもいなかった。
心配する両親を無視して若干の腹痛を我慢しながら学校へと足を運ぶ。
もしも休んだら、きっとあいつのせいにされる。
あいつが俺を虐めたから、俺が学校に行けなくなったなんて、周りから思われてしまう。
そんなことは絶対になくて。
迷惑だなんて、嫌だなんて別に思ってもいなくて。
ただあいつに殴られれば殴られた分だけ、あいつのことが分かるような気がしていたから。
電気もついてない埃っぽいクラブハウスの中へ入ると、俺の頭を誰かが蹴った。
しっかりとしたスパイクの感触が頭にジンと残り、何事かと思って頭上を見上げて呼吸が止まった。
「おい、何やってんだよ木下……」
そう言いながらも胃から何かが込み上げて来るのを感じた。
「早く降りて来いって、それマジで危ないって、降りて来なきゃお前死んじゃう」
ぞ、と言い掛けて頭の中がフリーズする。
死んでいるのだと気付くのに、どれだけの時間を有したことだろう。
俺は天井からつられた死体に向かって、どれだけの時間喋り続けていたのだろう。
悲鳴を上げるにも声が出なくて、竦む足をムリに引き摺って職員室へと飛び込んで行った。
「木下がクラブハウスで首をつっているんです!」
そう言っているのもまるで夢心地だった。
先生たちがガタガタと席を立ってクラブハウスへと走って行くのをボーッと見送った。
野球部は全員グラウンドに集められた。
部内でいじめがなかったか、何か前日に問題は起こらなかったか、そんなことを監督やコーチから何度も何度も聞かれた。
問題のあった俺は誰よりも粘着質に尋問された。
何もしていません、俺は何もしていません……。
そう答えている間に胸が苦しくなってきて、上手く呼吸ができなくなった。
――けれど、あいつは俺に色々なことをしました。
その言葉を続ける前に、泣いてしまった。
自分は木下を分かっている気になっていた。
自分が1番身近にいるということを知っていたから、あいつも俺のことを分かっているのだと思い続けていた。
助けられなかった、仲間を見殺しにした。
自分は結局、いてもいなくても何もできない役立たずなのだと、痛感してしまった。
心配する両親を無視して若干の腹痛を我慢しながら学校へと足を運ぶ。
もしも休んだら、きっとあいつのせいにされる。
あいつが俺を虐めたから、俺が学校に行けなくなったなんて、周りから思われてしまう。
そんなことは絶対になくて。
迷惑だなんて、嫌だなんて別に思ってもいなくて。
ただあいつに殴られれば殴られた分だけ、あいつのことが分かるような気がしていたから。
電気もついてない埃っぽいクラブハウスの中へ入ると、俺の頭を誰かが蹴った。
しっかりとしたスパイクの感触が頭にジンと残り、何事かと思って頭上を見上げて呼吸が止まった。
「おい、何やってんだよ木下……」
そう言いながらも胃から何かが込み上げて来るのを感じた。
「早く降りて来いって、それマジで危ないって、降りて来なきゃお前死んじゃう」
ぞ、と言い掛けて頭の中がフリーズする。
死んでいるのだと気付くのに、どれだけの時間を有したことだろう。
俺は天井からつられた死体に向かって、どれだけの時間喋り続けていたのだろう。
悲鳴を上げるにも声が出なくて、竦む足をムリに引き摺って職員室へと飛び込んで行った。
「木下がクラブハウスで首をつっているんです!」
そう言っているのもまるで夢心地だった。
先生たちがガタガタと席を立ってクラブハウスへと走って行くのをボーッと見送った。
野球部は全員グラウンドに集められた。
部内でいじめがなかったか、何か前日に問題は起こらなかったか、そんなことを監督やコーチから何度も何度も聞かれた。
問題のあった俺は誰よりも粘着質に尋問された。
何もしていません、俺は何もしていません……。
そう答えている間に胸が苦しくなってきて、上手く呼吸ができなくなった。
――けれど、あいつは俺に色々なことをしました。
その言葉を続ける前に、泣いてしまった。
自分は木下を分かっている気になっていた。
自分が1番身近にいるということを知っていたから、あいつも俺のことを分かっているのだと思い続けていた。
助けられなかった、仲間を見殺しにした。
自分は結局、いてもいなくても何もできない役立たずなのだと、痛感してしまった。