・*不器用な2人*・
第67章/もう1度
翌朝。
通学路で合流した梶君は眼の下にクマを作っていた。
「どうしたのその顔、寝不足?」
私が訊ねると、梶君は疲れたように「ちょっとね」と言う。
「昔の夢を見てたんだけど……、なんか一晩で3年分の人生振り返らされちゃったんだよ。当然のように疲れた、なんか疲れた」
睡眠時間8時間の間に3年分……。
私も自分の3年間をあてはめて一緒にぐったりとしてしまう。
「それは疲れるね」
そんなことを言いながら、私も相当な寝不足だった。
何だか不思議な夢を見ていた。
それは絶対に経験したこともないような、けれどいつか経験しそうなごくありふれた日常。
バイト先で出会った男の子と夜遅くまで遊んだり、彼氏と一緒に水族館へ遊びに行ったりするという、別に何の問題もないような夢だった。
ただ、その相手が梶君ではなかったというだけの話で。
「今日も平常授業か、ダルいね」
そう言う梶君に「そうだねー」と相槌を打ちながら、私は眠気を堪えて校門を抜けた。
「今日も木山君は欠席?連絡は来てなかったんだけどなぁ」
担任がHRで教室を見渡してそう言うと、猿渡さんが声を上げた。
「私つい10分前にそこの階段で木山君に挨拶しましたよ」
猿渡さんが「そこ」と言って指さしたのは、私たちが昨年度よく使っていた屋上へと続く階段だった。
「来てるなら教室に顔だけでも出せば良いのにねー」
女子たちがそんなことを囁き合っている間にHRは終わった。
「木山君来てたんだね」
私がそう言いながら振り向くと、梶君は慌てたように顔を上げた。
「どうしたの、なんか顔怖いよ」
私が言うと、梶君は「そう?」と目を丸くした。
「屋上でサボりなのかな、木山」
梶君の言葉に私は首を傾げる。
「そりゃ、屋上なんてやることないしねぇ」
そう言い掛けて、私はハッとした。
今朝梶君が言っていた「3年分の夢」というのには、中学2年のことも含まれていたのだろうか。
「俺、ちょっと屋上行ってくる」
梶君が席を立つのにつられ、私も立ち上がった。
教室を出ると、めぐちゃんや浅井君、井上君まで付いてきた。
「不謹慎だとは思うんだけど、つい想像しちゃうんだよね、こういうことって…」
めぐちゃんが苦笑を浮かべながら階段をタンタンと規則正しい足音を響かせながら登って行く。
新学期になってから1度も立ち入らなかった屋上の扉をゆっくりと開ける。
その先に広がるのは目がくらみそうな青空と、フェンスの外に立っている木山君。
「え。嘘……」
めぐちゃんがギョッとしたように呟いた。
私たちの足音に気付いたのか木山君は此方を振り返る。
いつものように笑い掛けてくれれば良かったのに、そうしたら私たちもいつも通り騙されていたかもしれないのに。
よりによって木山君は泣いていた。
「木山、そこ結構マジに危ないから。
フェンスの外とかシャレにならないから」
浅井君がそう怒鳴っても、木山君は何も言わず、ただ私たちを眺めていた。
通学路で合流した梶君は眼の下にクマを作っていた。
「どうしたのその顔、寝不足?」
私が訊ねると、梶君は疲れたように「ちょっとね」と言う。
「昔の夢を見てたんだけど……、なんか一晩で3年分の人生振り返らされちゃったんだよ。当然のように疲れた、なんか疲れた」
睡眠時間8時間の間に3年分……。
私も自分の3年間をあてはめて一緒にぐったりとしてしまう。
「それは疲れるね」
そんなことを言いながら、私も相当な寝不足だった。
何だか不思議な夢を見ていた。
それは絶対に経験したこともないような、けれどいつか経験しそうなごくありふれた日常。
バイト先で出会った男の子と夜遅くまで遊んだり、彼氏と一緒に水族館へ遊びに行ったりするという、別に何の問題もないような夢だった。
ただ、その相手が梶君ではなかったというだけの話で。
「今日も平常授業か、ダルいね」
そう言う梶君に「そうだねー」と相槌を打ちながら、私は眠気を堪えて校門を抜けた。
「今日も木山君は欠席?連絡は来てなかったんだけどなぁ」
担任がHRで教室を見渡してそう言うと、猿渡さんが声を上げた。
「私つい10分前にそこの階段で木山君に挨拶しましたよ」
猿渡さんが「そこ」と言って指さしたのは、私たちが昨年度よく使っていた屋上へと続く階段だった。
「来てるなら教室に顔だけでも出せば良いのにねー」
女子たちがそんなことを囁き合っている間にHRは終わった。
「木山君来てたんだね」
私がそう言いながら振り向くと、梶君は慌てたように顔を上げた。
「どうしたの、なんか顔怖いよ」
私が言うと、梶君は「そう?」と目を丸くした。
「屋上でサボりなのかな、木山」
梶君の言葉に私は首を傾げる。
「そりゃ、屋上なんてやることないしねぇ」
そう言い掛けて、私はハッとした。
今朝梶君が言っていた「3年分の夢」というのには、中学2年のことも含まれていたのだろうか。
「俺、ちょっと屋上行ってくる」
梶君が席を立つのにつられ、私も立ち上がった。
教室を出ると、めぐちゃんや浅井君、井上君まで付いてきた。
「不謹慎だとは思うんだけど、つい想像しちゃうんだよね、こういうことって…」
めぐちゃんが苦笑を浮かべながら階段をタンタンと規則正しい足音を響かせながら登って行く。
新学期になってから1度も立ち入らなかった屋上の扉をゆっくりと開ける。
その先に広がるのは目がくらみそうな青空と、フェンスの外に立っている木山君。
「え。嘘……」
めぐちゃんがギョッとしたように呟いた。
私たちの足音に気付いたのか木山君は此方を振り返る。
いつものように笑い掛けてくれれば良かったのに、そうしたら私たちもいつも通り騙されていたかもしれないのに。
よりによって木山君は泣いていた。
「木山、そこ結構マジに危ないから。
フェンスの外とかシャレにならないから」
浅井君がそう怒鳴っても、木山君は何も言わず、ただ私たちを眺めていた。