・*不器用な2人*・
木山君が、その場にしゃがみ込むのが遠くから分かった。
私は梶君の背中を軽く押す。
彼は少しだけ躊躇した後、木山君へと駆け寄って行った。
「お前の人生がどうでも良いものだったら、俺は途中でUターンしてたよ」
梶君が木山君にそう言うと、彼の鼻先に手を差し出した。
木山君は座ったまま梶君を見上げていたものの、やがてその手を握った。
梶君は木山君の肩をもう片手で掴むと、強引にフェンスのこちら側へと木山君を連れ込む。
「ハイ、到着」
彼は笑いながら木山君の前に座り、「え!?」と驚いたように声を上げた。
おろおろする梶君の代わりに、駆け寄った井上君が慌てたように木山君の髪をクシャクシャと撫でる。
「はいはい、泣かない泣かない」
子供でもあやすように言う井上君の横を通り過ぎ、浅井君はフェンスから身を乗り出す。
「高っ!!ここ高すぎるヤバい!木山、さすがにこれは怖かっただろ!」
浅井君に言われた木山君は顔を片手で覆いながら小さく頷いた。
「怖かった」
そう呟く木山君を、梶君と井上君が必死にあやす。
めぐちゃんはホッとしたのか扉の前に座り込み大きく溜息をついた。
私も彼の横に腰を下ろし、「良かった」と呟く。
「本当だよ。あいつが飛び降りたらどうしようかと……」
めぐちゃんは作った笑いをクシャリと歪めて、急にボロボロとなき始めた。
私たちが教室にいないからと探しにやって来た先生が、生徒大勢が座り込んで泣いている姿を見て何事かと私に訊ねて来た。
「ちょっと、人生振り返ってました」
私が答えると、先生は訳が分からないというような表情を浮かべた後、男子たちに囲まれている木山君の頭に手を置いた。
「おまえ、単位足りなくなる前に教室に戻ってこいよ」
木山君は少しだけ顔を上げて驚いたように先生を見上げる。
「だってよ木山。お前もしかすると1人だけ留年かもよ」
茶化して言う浅井君の頭を先生が盛大に叩き、「お前は次のテストを心配しやがれ」と怒鳴った。
「一応ここは立ち入り禁止だからな。不用意に入るな。
大事な預かり物に万一のことがあったら、俺ら教師の首が飛ぶんだ」
先生は仏頂面でそう言うと、もう1度だけ木山君の頭に手を置いて、一足先に屋上を出て行ってしまった。
淳君が駆け付けたのはまもなくのことだった。
先生に言われるまでまったく気にしていなかったらしい。
血相を変えて駆け付けた彼は急に触ってはいけないなんてルールを完全に無視して木山君に抱き付いた。
ずっと泣いていた木山君も淳君の前では慌てたように顔を覆おうとし、また一気に表情を崩してしまった。
「死ぬなんて、そんなこと考えるなよ。薫がいなくなったら俺も悲しい」
淳君はそう言いながら木山君を力いっぱい抱きしめた後、小声で付け加えた。
「薫に名前を付けた人も、絶対に悲しむはずだから」
その言葉に、木山君が驚いたように淳君を突き飛ばす。
「え、それ、何のこと……」
木山君が掠れた声でそう言うと、淳君が気まずそうに視線を逸らす。
「それは後でちゃんと話すから……とりあえずそのみっともない顔どうにかして」
無愛想に言われた木山君は一瞬だけムッとしたような表情を浮かべ、両手で乱暴に涙を拭った。
私は梶君の背中を軽く押す。
彼は少しだけ躊躇した後、木山君へと駆け寄って行った。
「お前の人生がどうでも良いものだったら、俺は途中でUターンしてたよ」
梶君が木山君にそう言うと、彼の鼻先に手を差し出した。
木山君は座ったまま梶君を見上げていたものの、やがてその手を握った。
梶君は木山君の肩をもう片手で掴むと、強引にフェンスのこちら側へと木山君を連れ込む。
「ハイ、到着」
彼は笑いながら木山君の前に座り、「え!?」と驚いたように声を上げた。
おろおろする梶君の代わりに、駆け寄った井上君が慌てたように木山君の髪をクシャクシャと撫でる。
「はいはい、泣かない泣かない」
子供でもあやすように言う井上君の横を通り過ぎ、浅井君はフェンスから身を乗り出す。
「高っ!!ここ高すぎるヤバい!木山、さすがにこれは怖かっただろ!」
浅井君に言われた木山君は顔を片手で覆いながら小さく頷いた。
「怖かった」
そう呟く木山君を、梶君と井上君が必死にあやす。
めぐちゃんはホッとしたのか扉の前に座り込み大きく溜息をついた。
私も彼の横に腰を下ろし、「良かった」と呟く。
「本当だよ。あいつが飛び降りたらどうしようかと……」
めぐちゃんは作った笑いをクシャリと歪めて、急にボロボロとなき始めた。
私たちが教室にいないからと探しにやって来た先生が、生徒大勢が座り込んで泣いている姿を見て何事かと私に訊ねて来た。
「ちょっと、人生振り返ってました」
私が答えると、先生は訳が分からないというような表情を浮かべた後、男子たちに囲まれている木山君の頭に手を置いた。
「おまえ、単位足りなくなる前に教室に戻ってこいよ」
木山君は少しだけ顔を上げて驚いたように先生を見上げる。
「だってよ木山。お前もしかすると1人だけ留年かもよ」
茶化して言う浅井君の頭を先生が盛大に叩き、「お前は次のテストを心配しやがれ」と怒鳴った。
「一応ここは立ち入り禁止だからな。不用意に入るな。
大事な預かり物に万一のことがあったら、俺ら教師の首が飛ぶんだ」
先生は仏頂面でそう言うと、もう1度だけ木山君の頭に手を置いて、一足先に屋上を出て行ってしまった。
淳君が駆け付けたのはまもなくのことだった。
先生に言われるまでまったく気にしていなかったらしい。
血相を変えて駆け付けた彼は急に触ってはいけないなんてルールを完全に無視して木山君に抱き付いた。
ずっと泣いていた木山君も淳君の前では慌てたように顔を覆おうとし、また一気に表情を崩してしまった。
「死ぬなんて、そんなこと考えるなよ。薫がいなくなったら俺も悲しい」
淳君はそう言いながら木山君を力いっぱい抱きしめた後、小声で付け加えた。
「薫に名前を付けた人も、絶対に悲しむはずだから」
その言葉に、木山君が驚いたように淳君を突き飛ばす。
「え、それ、何のこと……」
木山君が掠れた声でそう言うと、淳君が気まずそうに視線を逸らす。
「それは後でちゃんと話すから……とりあえずそのみっともない顔どうにかして」
無愛想に言われた木山君は一瞬だけムッとしたような表情を浮かべ、両手で乱暴に涙を拭った。