・*不器用な2人*・
第68章/本当の家族
教室へ皆で鞄を取りに行くと、クラスメートたちは何事かというように振り返った。
先生だけは仏頂面のまま私たちの早退を見送ってくれた。
校門を抜けて皆で歩くのはかなり久しぶりのことだった気がする。
先頭を淳君とめぐちゃんが、その後は皆ぞろぞろと、無言で歩いた。
梶君や浅井君や井上君も気不味そうに視線を泳がせていたし、木山君もずっと俯いたままでいた。
「後でお説教だってよ、木山君」
私が先程教室を出る際に言われた言葉を伝えると、木山君は鼻をすすりながら「嘘…」と呟いた。
「本当。怒ってたよ、先生」
着いたのは、一軒家だった。
「淳、何処だここ」
表札が2つ掛った大きな3階建ての家に、梶君が呆ける。
「俺の家」
淳君は表札のうち1つを手でコンを叩いた。
1つは「木山」となっていた。
もう1つはまったく聞き覚えのない苗字が書かれていた。
インターホンを押すと、中からはすぐに私の母と同じくらいの歳の女性が出てきて、私たちを見渡して「まぁ……」と声を漏らした。
明るい髪を胸まで伸ばした端正な顔立ちの女性は、淳君がずっと「養母」と言っていた人に当たるらしい。
「薫が、此処に住みたいって」
淳君が女性を見下ろして言うと、門の外でジっとしていた木山君が「はぁ!?」と声を上げた。
「淳、俺そんなこと一言も言ってない!」
木山君の言葉に淳君が呆れたように振り返る。
「あの家でこれから毎日を過ごすくらいなら死んだ方がマシー!なんだろ」
淳君がバカにしたように鼻を鳴らして言うと、木山君は言葉に詰まって黙り込む。
木山君へと目をやった女性は何度もまばたきした後、驚いたように彼へと駆け寄って来た。
「薫君、大きくなったね!
淳君と同じ髪じゃなかったら分からなかったかも!」
木山君は女性に「どうも」と小さく頭を下げたきり何も言わなかった。
淳君の部屋へと皆が上がってから、私はキッチンへと降りて行った。
「何か手伝えること、ありますか」
女性に声をかけると、お茶を入れていた彼女は目にかかった前髪を耳に掛けながら「じゃあ、お願いしちゃおうかな…」と笑うと、お菓子を乗せたトレイを私に差し出す。
そのほんの数秒の間に私はハッとした。
「笑い方、木山君たちに似てますね」
思ったことをそのまま口にすると、女性は「え……」と目を丸くした。
「薫君も淳君も、笑う時は髪を耳に掛けて、顔をクシャってするんです」
私が言うと、女性は少しだけの間を置いて、「そうなんだ」と小声で言った。
「私、お茶持って行くから先にお菓子持って行ってて。
何から話そうかいろいろ緊張してるから、遅れていきます」
笑顔でそう言われ、私は頷いた。
――あの人が恭子さんなんだ。
階段を上りながら、少しだけ分かった気がした。
先生だけは仏頂面のまま私たちの早退を見送ってくれた。
校門を抜けて皆で歩くのはかなり久しぶりのことだった気がする。
先頭を淳君とめぐちゃんが、その後は皆ぞろぞろと、無言で歩いた。
梶君や浅井君や井上君も気不味そうに視線を泳がせていたし、木山君もずっと俯いたままでいた。
「後でお説教だってよ、木山君」
私が先程教室を出る際に言われた言葉を伝えると、木山君は鼻をすすりながら「嘘…」と呟いた。
「本当。怒ってたよ、先生」
着いたのは、一軒家だった。
「淳、何処だここ」
表札が2つ掛った大きな3階建ての家に、梶君が呆ける。
「俺の家」
淳君は表札のうち1つを手でコンを叩いた。
1つは「木山」となっていた。
もう1つはまったく聞き覚えのない苗字が書かれていた。
インターホンを押すと、中からはすぐに私の母と同じくらいの歳の女性が出てきて、私たちを見渡して「まぁ……」と声を漏らした。
明るい髪を胸まで伸ばした端正な顔立ちの女性は、淳君がずっと「養母」と言っていた人に当たるらしい。
「薫が、此処に住みたいって」
淳君が女性を見下ろして言うと、門の外でジっとしていた木山君が「はぁ!?」と声を上げた。
「淳、俺そんなこと一言も言ってない!」
木山君の言葉に淳君が呆れたように振り返る。
「あの家でこれから毎日を過ごすくらいなら死んだ方がマシー!なんだろ」
淳君がバカにしたように鼻を鳴らして言うと、木山君は言葉に詰まって黙り込む。
木山君へと目をやった女性は何度もまばたきした後、驚いたように彼へと駆け寄って来た。
「薫君、大きくなったね!
淳君と同じ髪じゃなかったら分からなかったかも!」
木山君は女性に「どうも」と小さく頭を下げたきり何も言わなかった。
淳君の部屋へと皆が上がってから、私はキッチンへと降りて行った。
「何か手伝えること、ありますか」
女性に声をかけると、お茶を入れていた彼女は目にかかった前髪を耳に掛けながら「じゃあ、お願いしちゃおうかな…」と笑うと、お菓子を乗せたトレイを私に差し出す。
そのほんの数秒の間に私はハッとした。
「笑い方、木山君たちに似てますね」
思ったことをそのまま口にすると、女性は「え……」と目を丸くした。
「薫君も淳君も、笑う時は髪を耳に掛けて、顔をクシャってするんです」
私が言うと、女性は少しだけの間を置いて、「そうなんだ」と小声で言った。
「私、お茶持って行くから先にお菓子持って行ってて。
何から話そうかいろいろ緊張してるから、遅れていきます」
笑顔でそう言われ、私は頷いた。
――あの人が恭子さんなんだ。
階段を上りながら、少しだけ分かった気がした。