オレンジ





□■□■



「ただいま…」


広い家に、あたしの声が虚しく消えた。


この家で『ただいま』と言うようになったのは、しょーへーの家に帰るようになったからだろう。




家の中はまるで生活感がなかった。



こもった空気にはたばこの香り。


夏の暑さをこの家は吸収しきっている。



窓を開けたのは、いつだったかな。


それくらい、この家で過ごした時間は少ないんだ。



リビングに入ると、いつものように茶封筒が置かれていた。


お母さんの字で、今月はこれで生活しないさい、と。


お金は十分すぎるほど。


家を空けているからか、あたしに気を遣っているのがすごくわかる。



そんなものよりも、あたしはぬくもりとか笑顔とか"家族団欒"という言葉がほしいのに。

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