オレンジ
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「ただいま…」
広い家に、あたしの声が虚しく消えた。
この家で『ただいま』と言うようになったのは、しょーへーの家に帰るようになったからだろう。
家の中はまるで生活感がなかった。
こもった空気にはたばこの香り。
夏の暑さをこの家は吸収しきっている。
窓を開けたのは、いつだったかな。
それくらい、この家で過ごした時間は少ないんだ。
リビングに入ると、いつものように茶封筒が置かれていた。
お母さんの字で、今月はこれで生活しないさい、と。
お金は十分すぎるほど。
家を空けているからか、あたしに気を遣っているのがすごくわかる。
そんなものよりも、あたしはぬくもりとか笑顔とか"家族団欒"という言葉がほしいのに。