私だけの着信音
「すみません!前をよく見ていなかったもんで」
「い、いえ」
彼は慌てて立ち止まると、私と一緒にそれを拾い上げる。ふと、指先が重なり合い、私は思わず腕を引っ込めた。
「ちゃんと全部ありますよね?」
眼鏡越しの少し不安げな瞳が此方を覗く。その顔立ちに私は目を見開いた。
「あの…もしかして…」
途端に鳴り出す、彼からの着信音。
大好きなあの曲。
でも、私は出るのを躊躇っていた。
何故なら、目の前の彼が…
私の手を掴んで走り出したから。