私だけの着信音
人気がない路地裏で、彼はようやく私を離すと、息を整えながらくすりと笑った。
「それ、俺が初めて作詞した曲」
彼は私を壁際に詰め寄ると、両手で逃げ場を塞いだ。
「まだ、わからない?俺だよ」
「…Atomのヒロさんじゃ… 」
「そうだけど、ハズレ。早く当てないとどうなるか知らないよ?」
彼はそう言うと、イタズラに顔を近づける。
私の大好きなあのAtomのヒロが、目の前にいる!それだけで顔が熱くて、何も考えられない。
「残念、時間切れ。忘れるなんて酷いよな、手紙くれただろ?」
「ひ、大翔?!」
「もう遅い…」
そして、待ちきれない様に、何度もキスを浴びせる大翔。
私の呼吸が乱れているのもお構いなく。
ふと、彼からの何度目かの着信音が鳴る。
「この曲、お前を想って書いたんだ。でも今は…」
そう言うと、大翔は携帯の電源を切った。
[完]