浅はかな願い
「ああ。お前、ほんっとムカつくね」
順はそう言いながら私の体を引き寄せる。私の頭は順の胸に当たって、雅也にひどい罪悪感が込み上げてくる。
背中が熱い。密着した部分から溶けていってしまいそう。
でもいっそ、溶けていってしまった方がいいのかもしれない、とか。
順のこの腕の中で、雅也に罪悪感を感じながらも喜んでいる自分がいることに、漠然と嫌悪感。
それでも、心臓がすごい勢いで鳴っている。
順に聞こえてほしくない。聞こえてほしくない。
……でも、気付いて。
満員電車での数十分間。
きっとたったそれだけしか、私と貴方は触れあわない。
だから私の背中からのシグナルを溢さないで。
なんて、私の浅はかな願い。
(完)