Polaris

Shootin’ star

「暁くんって何で彼女作らないの?」
パソコンに向かう背中に問い掛ける。
「またそれか…。前にも言っただろ、今はそんなこと考える余裕ないくらい
忙しいんだって」
それに、と一呼吸置いて私に向き直った。
「百合がいれば飯にも不自由しないし。だから必要ない」
はっきりと言い切った暁くんはまたパソコンの方へ体を戻した。

「でも、私が出ていったら、そうも言ってられないよ?」
私の言葉に暁くんが再び振り向いた。

「出ていくの?」
表情も仕草もいつもと変わらない。ただ、ひどく抑揚のない声だった。
「え、あ…おじさまに相談してるところ…」
私は射抜くような視線に耐え切れずに目を逸らした。
「お、お茶入れてくるね」
キッチンへ向かおうとした私の手が掴まれた。
「百合はそれでいいの?」

おじさまもそう言っていた。何を言ってるんだろう、二人とも―――――
でも、同じこと言うなんて親子だな、なんて場違いなことを思ったりもした。

私は一生彼の妹で居続けるべきなんだ。
「ちゃんと考えたよ。これからのことも…」
「そう…」
ぱっと手を離し、それきり暁くんは何も言わなかった。
私、何か言ってしまったのかな――――
それからその話題に触れることはなかった。
お互いにそれが禁句であるかのように避けていた。

そんな会話があって半年――――
私は本格的に進路を決めなければならない時期にきていた。
「はい、わかりました」
「親父?」
「うん、明日帰国するって」
「ふーん…」
おじさまたちが私の進路を話し合うため久しぶりに帰国する。
私自身会うのはほんの数回目だ。
なかなか帰ってこられないおじさまたちの代わりにずっと側にいたのは
暁くんだったから。

「何かおいしいものでも食べようって言ってたよ。どこがいいかなあ…」
「百合」
「久しぶりの日本だから和食がいいよね。暁くん、どこか…」
「百合!」
びくん、と私が肩を震わせると暁くんは溜め息を吐いた。
「答え、出したんだろ?」
ずっと二人が避け続けていた話題を敢えて口にした。
明日になればいずれわかることなのに何で答えを急ぐんだろう?
私は、前みたいな気まずい雰囲気は嫌なのに。


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