バーテンダー

アパートに着いた頃は既に十時を過ぎていて
「また、電話するから」
と言って帰ろうとした彼に
「コーヒーでも飲んで行きませんか?明日は……非番なんでしょう?」


わたしから誘い。


朝からずっと傍に居た彼だったが、わたしに気を使っていたようで、どこかヨソヨソしさが感じられた。


一人暮らしのアパートに、しかもこんな夜の十時に男を引き入れて、何か間違いが起きても、逃げることは出来ないくらい承知している。


それでも、もう少し彼の傍に居たかった。


「じゃあ……ちょっとだけ」


彼が嬉しそうに車から降りて来た。


六畳の洋室と四畳半の和室にキッチン、トイレ、お風呂。


どこにでもあるアパートの間取り。


丸テーブルの上にコーヒーカップを並べて置いた。


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