キミの風を感じて
「そうだよ、中止だよ。なのに何やってんの? ケガは? 大丈夫だったの?」
矢継ぎ早に質問すると、彼はコクンとうなずいた。
うなずいたまま顔をあげない加島くんの横に、わたしも腰を落としてしゃがみこむ。
「むちゃだよ、こんなどしゃぶりの中、全力疾走するなんて危ないよ」
差し出した傘が加島くんを守る。
「……走りたかったんだ」
かすれた声が言った。
「せっかく調子があがってきてんのに、走ってないと忘れちまいそうで」
「忘れるって、何を?」
「……走り方」
濡れた髪からしずくが滴って流れていく。
伏せたまつ毛にまで小さな雨粒が宿る。