キミの風を感じて
「わ、わたしが教えてあげる」
「……?」
「加島くんが忘れちゃったら、わたしが教えてあげるから……!」
傘の柄を彼の肩にもたれかけさせて手を離し、わたしはスクッと立ちあがった。
「こうだよ、こう。手は前後に、こぶしなんか目の高さを超えちゃうくらいまで大きく振るんだ」
加島くんがよく見えるようにと横向きに立ち、わたしは彼に教わった通りのフォームをして見せた。
「足はいつもより大きく、前へ前へと踏み出すの」
「それからね、肩の力は抜いて、顔は真っ直ぐ」
「あと、スタートダッシュはつま先で思いっきり蹴って……」
「それから、えっと、走り出して最初は姿勢を低くして……」
そのときフワッと雨がやんだ。
ううん、やんだわけではなくて、立ちあがった加島くんが、わたしに傘を差しかけてくれていた。
もう怒った顔はしていない。
だけど何だか泣き出しそうに見えるよ?