キミの風を感じて
ぼんやりと歩きながら、今朝の――
朝練での出来事を思い出していた。
加島くんにバトンを差しだそうと手を伸ばした瞬間、『危ねーぞ!』って声が飛んで来たんだった。
わたしが追いかけるはずの加島くんが、逆にこっちに向かって駆けてきて……
あとはよく覚えていない。
彼に突き飛ばされるように、でもグルッと体が反転して、気がついたら仰向けに倒れている加島くんの腕の中にいた。
ギュッと、抱きしめられるようにして。
驚いて体を動かそうにも、強い力で締めつけられていて自由がきかない。
彼の一方の腕はわたしの背中にまわされ、もう片方はわたしの頭ごとすっぽりと自分の胸に抱え込んでいた。
『か、加島くん?』
ピタッと密着した彼の胸に顔をうずめたまま呼んでみたけど返事はなかった。