キミの風を感じて

「はい。汗かいてない?」


ひと通り終えて差し出されたタオル。


「サンキュ」


受け取るとき指先が触れて、立木さんが「ひゃあ」と声をあげた。




「冷たいんだね、加島くんの手」


「ああ、レースの前はいつもこうなる。緊張してんだろーな」


「加島くんでも緊張するの?」


不思議そうに目を丸くして見あげてくる。




「逃げ出したいんだ、ホントはいつも……」


思わずそうつぶやいていた。




真っ直ぐに向けられた大きな瞳――。




「逃げ出しちゃおっか、二人で」


クルッと表情が変わって、無邪気に微笑う。




「バカ、逃げねーし」


「知ってるよ」




加島くんは逃げないもん、なんて言いながら両手を広げて深呼吸をしている。


わかってないんだ。


誰がそれを俺に教えてくれたのか……。


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