キミの風を感じて
「覚えてない?」
何気ないように訊いてみる。
「何を?」
キョトンと首をかしげる君。
「陸部は毎年体育祭の裏方に担ぎ出されるんだけど、去年は俺、障害物走の担当だったんだ」
「ふうん」とつぶやいてから、ちょっと間があって、「へっ?」と小さな声が漏れた。
つややかな唇が、半開きになる。
「ネットに絡まった君を助けに行ったのは俺だよ」
「え、マジで……?」
「髪がもつれて絡まっちまって大変だった」
「えー、やだなぁ。あの係の人加島くんだったの?」
あの日泣き出しそうに俺を見あげた顔と、今俺の横でほんのり赤く染まった顔とが重なっていく。
そのとき――
不意にギュッと、手を握られた。
見ると立木さんの柔らかな手の中に、俺の両手が包み込まれている。